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Savior 第一部 救世主と魔女Ⅳ

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 にこにこと微笑みながら、レーナはへらへらと手を振る。本当に本気でないなら相当に演技力がある。そう思うぐらい、あの脅し文句は真に迫っていた。少なくとも、ロドニーが怖がるぐらいには。
「・・・・・・これだから嫌なんだ」
 微笑むレーナを見ながら、キーネスは若干引き攣った顔でそう呟く。彼にしては珍しく、感情を表に出している。それぐらい、レーナのあれが嫌なのだろうか。
「交渉成立したので早速馬車に乗せて貰いましょう!」
 戻ってきたレーナがどこか楽しげにそう言うと、キーネスはわざとらしく目をそらした。それを見たレーナは微笑んだまま首を傾げたが、特に言及はしないことにしたようだ。
「それはいいけど、なんでわざわざ私達を連れてきたの?」
 リゼは腕を組んで、笑うレーナに問いかける。フードで隠しているからロドニーに顔を見られていないが、わざわざ指名手配犯をここに連れてくることもないだろうに。
「密売人の末路が気になるかと思いまして。面白かったでしょ? あの人」
 意図の読めない表情でにこにこと笑いながら、レーナは言った。確かにロドニーは面白いぐらい表情をころころ変えたが、別に見たかったというほどではない。単にレーナが見せたかっただけだろうと思う。なぜ見せたのかは分からないが。
「ま、それはいいとして。そろそろ行きましょう」
 能天気そうな顔で交渉を終えたメリエ・リドス市長付き秘書官レーナは、そう謳うように言った。
「ロドニー審査官さんの専用馬車で、神の神聖なる街スミルナに」



「よぉ、アルベルト。久しぶりだな」
「ウィルツ・・・・・・!」
 思いがけない人物との再会に、アルベルト・スターレンは息を飲んだ。
 ウィルツ・テイラー。神学校の同期で同僚。悪魔祓い師の制服を身に纏い、手には愛用の杖(メイス)を持ち、口元には薄ら笑いを浮かべている。驚くアルベルトの顔を見て、その笑みはますます深くなった。
「何驚いてんだ。ここはスミルナだぜ? おれがいてもおかしくないだろ?」
 そう。神聖都市スミルナなら、悪魔祓い師の彼がいてもおかしくはない。ただ、ウィルツがこうしてまた現れるとは思わなかったのだ。マリークレージュで濁流に飲み込まれて、死んだのではないかと思っていたのだから。
「にしても、二人って聞いたから期待したんだが、もう一人はミガー人の男だっていうからガッカリだ。あの魔女はどうしたんだ?」
 アルベルトの周りを見回しながら、ウィルツは至極残念そうに言う。ウィルツの現在の職分は魔女の追跡と捕縛だ。マリークレージュでもリゼを捕らえようとした。だが今、彼女はいない。船の爆発に巻き込まれて、無事なのかもわからない。
「・・・・・・ここにはいない」
「なんだ。捨てられたのか。つまらねえ」
 期待を裏切られて、ひどく不満そうにウィルツは呟いた。任務を果たせないからというよりは、楽しみを奪われて残念極まりないといった様子だ。しかし、ウィルツはゼノを見ると、良いものを見つけたといわんばかりに再び嘲笑を浮かべた。
「代わりに拾ったのがそこの馬鹿面のミガー人か? こんな薄汚い奴とよく一緒にいられるな」
「なんだとてめえ! もっぺん言ってみやがれ!」
 侮辱されて一気に沸騰したゼノは拳を握りしめて怒鳴った。しかしウィルツは嘲笑をやめる様子はない。むしろますます嘲りを濃くして、ゼノを見やる。
「聞こえなかったのか? ミガー人は耳も悪いんだな。それともおれの言葉が分からねえか? 獣並の知性しか持たない異教徒どもに人間の言葉は難しいらしいな」
「うるせぇ! 悪魔祓い師なんてエラソーに踏ん反りかえってるくせに、まともに仕事もしねえじゃねえか! 悪魔を祓えるくせに、なんでこんなに悪魔憑きがいるんだ!? たくさんの人が苦しんでるっていうのに、仕事サボって平然としてるなんて、悪魔祓い師は怠け者の冷血人間ばっかりだ!」
「“偉そう”なんじゃねえよ。“偉い”んだ。おれたちは神の教えも守らない愚か者どもを救ってやるほど暇じゃない。神に逆らう魔女や、密入国した異教徒を捕まえなきゃいけないからな」
「愚か者だって? 罪人の大半が貧乏なせいで教会に行けないのに、それだけで理不尽に悪者扱いされてるってことくらいオレでも知ってるぜ。おまえらの神様って慈悲深いんだろ? なのに教会に来ないってだけで貧乏人を見捨てるのか?」
「最低限の義務すら果たさねえ奴を救ってやる価値なんてねえよ。いくら神様が慈悲深くてもな。全く頭が痛いぜ。おまえみたいな煩い猿を捕まえるのが仕事だなんてな。猿は猿らしく、」
「ウィルツ」
 元同僚の演説を遮るように、アルベルトは低い声で言った。ウィルツは口を閉じ、訝しげな顔でアルベルトを見る。どうして止める、とでも言いたげな顔だ。ウィルツの養父は敬虔な悪魔祓い師で、同時に強硬な異教徒排斥派でもある。ウィルツにとって、ミガー人(異教徒)は魔女と同じくらい唾棄すべきものなのだろう。が、
「それ以上、俺の友人を侮辱するな」
 そのことと、ミガー人(ゼノ)を侮辱していいかは別だ。
 そう言うと、ウィルツは酷く不愉快そうに顔をしかめた。
「・・・・・・はっ! 友人? さすが優等生だな。魔女の次は知能が猿並の異教徒も庇うのか」
「ウィルツ、二度も言わせるな」
「はいはい分かったよ優等生。口うるせーおまえと問答するつもりはねえ。時間の無駄だ」
 へらへらと笑い、ウィルツは興味をなくしたように無表情になる。ウィルツは杖を担ぎ直し、すっと目を細めた。
「さて、あんまりもたもたしてると騎士長のおっさんがうるさいからそろそろ本題に入らせてもらうぜ。なに、簡単なこった。――大人しく投降しろ」
 その一言に、周囲の騎士達の雰囲気がより剣呑になった。構えた武器をさらに突き出し、アルベルト達を威嚇する。だが、ゼノはそれにも構わず、怒りの声を上げた。
「んなこと言われて『はい分かりました』なんて言えるかよ。オレ達だって急ぎの用があるんだ。てめえらなんぞに捕まってたまるか!」
「黙れミガー人。自分達が圧倒的不利ってことぐらいわかんねえのか? その頭はからっぽか?」
 先程とは違う苛立ちを滲ませた声で言われ、ゼノは黙った。自分達が不利なことぐらい、彼にだって分かっている。この人数、多勢に無勢だ。
 だが、悪魔祓い師はウィルツ一人のようだ。残りは騎士ばかり。騎士長もいるが、悪魔祓い師ほど手ごわい相手ではない。やりようによっては、突破できるかもしれない。上手く隙を突けさえすれば。ただそのために、どうやってゼノに合図を送るかだが――
 するとアルベルトの考えを読んだのか、ウィルツはこちらに目を向けて言った。
「とはいえ、アルベルト。おまえに暴れられるのは困る。おれはおまえごときに負けはしねえが、騎士どもじゃ歯が立たねえだろうし、なによりめんどくさいからな。そこで取引だ」
「・・・・・・取引?」
「ああ。おまえらが大人しく投降したら、貧民街の連中には手を出さないと約束しよう」
 貧民街の人には手を出さない? 彼らは関係ないのに、どういうつもりだ。
「どういう意味だ」