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Savior 第一部 救世主と魔女Ⅳ

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 奇妙な発言に、リゼは顔をしかめた。口ぶりからして二人の行方を知っているようだが、どうやら喜ばしい状況ではないらしい。それも、シリルのことも含めて。嫌な予感がしていると、ティリーの代わりにキーネスが話し始めた。
「まずシリル・クロウの行方だが、あの替え玉の子供がクロウからの伝言を預かっていた。その証言を信じるなら、悪魔教徒達はスミルナにいる」
 替え玉の子供。悪魔教徒達が追手の目を欺くため、いつの間にかシリルとすり替えていた子だ。どうやらすり替えの時、一時接触があったらしい。
「子供の証言によると、クロウは『悪魔教徒達が教会に行くと言っている』と自分に告げ、『その教会は多分スミルナのことだ』と言っていたそうだ。どうやら奴らの会話を盗み聞きしたらしい」
「その証言、確かなの?」
 替え玉の子供が嘘をついているか、悪魔教徒達がわざと嘘を聞かせた可能性もある。そう言うと、キーネスは机の上にあった何かを取り上げた。小さな、掌に収まる程度の大きさのものだ。
「これが数日前帰港した貨物船の倉庫に落ちていた」
 キーネスが投げて寄越したのは、薄汚れた小さな袋だった。特に変わったものはない。見た目は何の変哲もない麻袋だ。口は紐を巻いて縛ってあったようだが、今は解かれている。
 袋をひっくり返すと、中から出て来たのは五芒星が描かれたマラーク教の聖印だった。銀色に磨かれた円盤が明かりを受けて鈍く光っている。わずかに感じられるのは悪魔祓い師の悪魔除けの術の力だろうか。簡素な麻袋の中で、聖印は輝いていた。
 しかし入っていたのは聖印だけではない。細長い布の切れ端が、遅れて袋の中から滑り出てきた。どうやらハンカチをちぎったものらしい。端がほつれて糸が出ている。その細長い布の表面には、炭らしきものでこう書いてあった。
『スミルナへ。C・C』
「――シリル・クロウ、か」
 同じ文字が二つ並んだイニシャルを見て、その文字が表すであろう名前を呟いた。
「クロウの筆跡だ。どうやら俺達にそれを伝えたかったようだな」
 取り上げられて捨てられる可能性を考えて、こうやってメッセージを残したのか。それだけシリルは必死だったのだろう。開けてはいけないと言われたお守り袋を開けて、メッセージを仕込もうと考えるぐらいには。
「これで少なくとも、クロウはアルヴィアにいる可能性が高いことが分かった。今はこの街の情報屋に頼んでクロウらしき人物がいなかったか調べているところだ」
 キーネスのその言に、
「この街に金髪の上品そうなお嬢ちゃんがいたら目立つからな。さすがに顔を隠すぐらいのことはしているだろうが、背格好がそれぐらいの身元不明の子供の目撃情報がいくつか上がっているようだ」
 ゴールトンが一枚の資料を見ながらそう言った。ということは、シリルと悪魔教徒の行先はスミルナだと考えていいということか。
「それで、アルベルトとゼノは?」
「・・・・・・居所は掴んでる」
 キーネスは苦虫をかみつぶしたような表情で言った。
「スミルナ教会地下牢だ。運悪くスミルナの貧民街に流れ着いたらしい」
 スミルナの教会地下牢?
 その単語に、リゼは驚くと共に先程のティリーの台詞に納得した。なるほど。運がいいのか悪いのか分からないというのはこういうことか。
 彼らは教会に捕まっているのだ。悪魔堕ちした悪魔祓い師と、密入国した異教徒として。
「見方を変えれば、シリル救出とアルベルト・ゼノ救出が同時に出来て手間がかからないとも言えるんですけど・・・・・・ってそこまで簡単なことでもないですわね」
 そう簡単にはいかないだろう。スミルナ教会の警備はそこまで緩くはないだろうから。シリルを助けて、アルベルトとゼノまで救出するのは難しい。優先すべきなのは――
「・・・・・・スミルナに悪魔召喚が出来そうな広い場所はあるの? 例えばスミルナの地下に水道なり洞窟なりがあるとか」
 まさか街中に召喚魔法陣を描いたりしていないだろう。となれば、悪魔教徒達はマリークレージュのように地下に潜んでいるに違いない。スミルナは大都市で地下水道があってもおかしくないから、そこにいるのではないかと思うのだが。
「スミルナの地下には巨大な洞窟があるという噂だ。街から出る下水は、下水道ではなく全てそこに流して、海に捨てているらしい」
「らしい・・・・・・?」
「教会が街の防衛のためと称して、詳しいことは全て秘匿しているんだ。だから一般市民は地下洞窟があるらしいということしか知らない。情報屋も洞窟のことはほとんど調べられていない。海の中に洞窟の入り口があることが分かっているくらいだ」
 なら、入ることはできても内部構造は分からないということか。海の中なら排水溝から侵入するのも無理そうだ。ということは、やはり地上から街に入るしかない。
「じゃあ、スミルナに忍び込む方法は? 裏道とかないの?」
 リゼは指名手配されている身だ。正面から堂々とは入れない。穏便に侵入する方法があればいいのだが、
「そんな都合のいいものはない。顔を知られていないならともかく、指名手配犯は無理だ。ただでさえ今のスミルナは、年明けの祭典のために警備が厳しくなっている。汚水の流れを遡る勇気があるなら、海底洞窟から侵入する手はあるがな」
 さすがに汚水の中を潜るのはごめんだ。やはり街に入る方法は限られているらしい。
「なら、方法は一つね」
 あまり気は進まないが、これしか方法がないなら仕方ない。愚図愚図していては悪魔教徒達が召喚を始めるかもしれないのだ。そうなったらマリークレージュの二の舞になる。手段を選んではいられない。そう思っていると、突然、
「・・・・・・あの、リゼ?」
 恐る恐る、といった様子で、ティリーが口を開いた。
「貴女まさか、真正面から堂々と入ろうとか考えてませんわよね?」
「他に何があるの?」
 即答すると、ティリーはやっぱりと呟いてがっくりと肩を落とした。
「そりゃ教会に捕まれば地下牢まで行けますけど・・・・・・」
「捕まってどうするのよ。門を突破して街の中に入れればいいだけなのに。それに向かうのは地下牢じゃなくて地下洞窟よ」
「どちらにしても駄目です!! 教会には悪魔祓い師が山のようにいるんですのよ!?」
「ラオディキアの悪魔祓い師は悪魔祓い師長以外、私一人で十分だったわよ」
 悪魔祓い師どころか騎士もいたが、誰も彼も馬鹿みたいに特攻してくるだけ。魔術を使えば怯えるか驚くかで統率もろくにとれていなかった。悪魔祓い師長のセラフとかいう奴はさすがに強かったが、それ以外は有象無象だ。だからスミルナとて同じ。そう言うと、ティリーはわざとらしく頭を押さえてよろける仕草をした
 しかしそれとは対照的に、豪快に笑ったのはゴールトンだった。彼は一しきり笑ってから、楽しそうに目を細めてリゼを見た。
「全く剛毅な嬢ちゃんだ。しかしな、神聖都市の悪魔祓い師は首都に近付くほど高位の者が配置されるようになる。ラオディキアは七つの神聖都市の末端。対してスミルナは聖都エフェソの一つ前、二番目の都市だ。ラオディキアの悪魔祓い師とは格が違うだろう」