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Savior 第一部 救世主と魔女Ⅳ

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「千年前、この国が魔王(サタン)によって脅かされた時、人々の祈りに答えて一人の聖騎士が遣わされました。神の子であり、“救世主”である聖騎士様によって、魔王は倒され世に平和が訪れた・・・・・・しかし長い時を経て魔王のしもべの国は復活し、魔王復活の時も近付きつつあるといいます。悪魔の数も増えていると聞きますし・・・・・・千年前と同じように、救世主は現れる時が迫っているのかもしれない。そう思いませんか?」
「さあ」
 神学談義は面倒だ。付き合っていられない。そもそもマラーク教の神様が救世主を遣わして悪魔を滅ぼすことができるなら、とっととやればいい話だ。なのに、あの神はそうしない。救世主が現れるのか現れないのかと心配する以前に、ただの怠慢だろうとしか思えない。少なくともアルヴィアのマラーク教徒は大事な信者だろうに。
「大体、噂の救世主は本当の救世主ではなかったんじゃないの? 教会が手配書まで出したじゃない。――救世主の名を騙る魔女だと」
「そうですね。でも、噂の方が悪魔祓いの力を持っているのは本当だと聞きました。神の力なのか、それとも悪魔の力なのかは分かりませんが、たとえ悪魔の力でも、それで救われるなら構わないと思う悪魔憑きはたくさんいるでしょう。そして悪魔の力でも、誰かを救えるなら構わないと、迷わずその力を振るう者も」
 アンはそう言って、じっとリゼを見た。何かを探ろうとするかのように、何かを見透かそうとするかのように。無言で。
 そして、静かに言った。
「ソフィア殿。あなたは悪魔祓い師ではないのですか?」
 唐突にそんなことを言われて、リゼは驚いてアンを見た。
「いきなり何よ」
「奇跡は、あなたが目を覚ましてすぐに起きましたから。少し気になって」
「そんなの偶然でしょう。第一、私が悪魔祓い師に見える?」
 否定すると、アンは何も言わず、意図の分からない笑みを浮かべた。彼女は何を言いたいのだろう。まさか、リゼが悪魔祓いをしたことに気付いている。ひょっとして、見られていたのか。だが、そうだとしても何も知らないふりをするだけだ。認めたら面倒なことになる。それに、悪魔祓い師でないことには間違いないのだから。
「そうですよね。まさか、ソフィア殿が悪魔祓い師な訳ありませんよね」
 しばらくして、アンは何気ない口調でそう言った。よくわからないが、彼女は納得したらしい。そのことに、リゼは安堵した。が、
 彼女の追及はそこで終わらなかった。
「でも、悪魔祓い師以外の何かである可能性はありますよね。例えば・・・・・・」
 彼女はまだ疑いを晴らしていなかったらしい。そう言って、リゼを見た。正確には、リゼの髪を。
「例えば、あなたの髪は緋色ですよね」
「・・・・・・そうだけど、それがどうしたの? 赤毛なんて、珍しいものじゃないでしょう?」
 そう、赤毛なんて珍しいものではない。そして、手配書に名前は書かれていない。似顔絵もない。書かれているのは簡単な人相書きと罪状だけ。名前も人相書きも詳細に書かれているアルベルトとは違う。あれで個人は特定できない、はずだ。
 アンが何故こんなことを言い出したのかは分からない。だが、こちらとしては白を切るだけだ。
 それから、リゼは何も言わなかった。アンも、沈黙したままだった。無言の睨み合いはほんの短い間のこと。しかしやけに長く感じられた。しばらくして、リゼは何も言わないのも不自然だろうと、さらに否定の言葉を発しようとした。が、
 不意に、ぞっとするような気配を覚えた。悪魔か。剣を持っていないのに、右手が腰に伸びる。振り返って扉の方を見ると、いつの間に来たのか、そこにはテオが立っていた。隣には薬湯の椀を乗せた盆を持ったララが付き添っている。
「あの・・・・・・薬湯を持ってきました。勝手に入ってすみません」
 テオはきちんとノックはしたのだろう。しかし、リゼもアンも、話をしていて気が付かなかった。仕方なく無断で入ったのだろう、テオは申し訳なさそうだった。
 それを見て、リゼは構えをといた。悪魔憑きの姿はない。悪魔がいる様子もない。気配も、いつの間にか消えている。気のせいか? それとも、どこかに隠れているのか。アルベルトなら何か分かったかもしれないが・・・・・・
「――ソフィアさん、さっき話していたことは、やっぱり違うんですよね」
「え・・・・・・?」
「あなたが悪魔祓い師だという話です」
 唐突に何を言うのかと思ったら、テオは二人の会話を聞いていたらしい。大して防音効果の高い壁ではないから嫌でも聞こえたのだろうが、まさかそんなことを訊かれるとは思わなくて、リゼは一瞬、言葉に詰まった。
「――そんな訳ないでしょう。アンといいあなたといい、そんなに私を悪魔祓い師にしたいの?」
 ようやく口を開いて呆れた風に言うと、テオは黙って目を伏せた。悪魔祓いをしたことはともかく、悪魔祓い師ではないことは事実なのだ。
 リゼに否定されて、テオはそれ以上聞く気はなかったらしい。彼は下を向くと、ゆっくりと話し出した。
「・・・・・・町の人の何人かが言っていた。悪魔祓いをしたのは、フードをかぶった見知らぬ人だって。誰かは分からないけど、神父様には見えなかったと」
 テオは静かに話を続ける。
「もしその人がまだこの町にいるなら、名乗り出て欲しい。自分がやったんだと。そして、あの人を治して欲しいんだ」
 リゼがその悪魔祓いをした人物だとは思っていないはずなのに、テオは真摯に訴えるようにそう言った。思わずリゼは目をそらしたが、テオはその動作に特に疑問は抱かなかったようだ。
「・・・・・・奇跡なんて起きないで欲しかったんだ」
 テオはうつむいて、ぽつりと呟いた。
「悪魔に取り憑かれた人達が助かってほしくないわけじゃない。でも、ここは悪魔憑きが死を迎える場所だ。みんなそれを理解していた。祈っても無駄だと。祈るのは気休めにしかならないと。それよりもみんなで助け合って、少しでも心安らかに逝けるようにするべきだと。でも、奇跡は起きてしまった。
 今までは教会を恨めばよかった。教会が間違っていて、自分達の教えの方が正しいと信じておけばよかった。もしくは、祈っても救ってくれない神を恨めばよかった。でもこれからは違う。町の人達のほとんどは兄のおかげだと思ってる。もし今後悪魔憑きが出て、その時奇跡が起きなかったら――恨まれるのは、兄だ」
 独白するようにそう言ってから、テオははっとしたような顔をした。こんなことを言っても仕方ないと我に返ったのかもしれない。それからテオは、
「・・・・・・変なことを言ってすみません」
 頭を下げてから、ララの持つ盆から木の椀を取り上げた。
「薬湯を。今朝の分です」
 差し出された椀には緑色の液体がなみなみと入っている。その苦さを思い出して思わず顔をしかめたが、飲まないとまたうるさいだろう。それに身体にいいことは間違いない。速く出発するためにも、リゼは大人しく薬湯を飲み干すことにした。
 相変わらず、薬湯は凄まじく不味かった。この味だけは何とかならないのかと思うが、強烈過ぎて何を混ぜてもこの味は誤魔化せないだろう。何度飲んでも慣れない味だが、なんとか我慢して飲み込もうとして、