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Savior 第一部 救世主と魔女Ⅳ

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 アルベルトがそう提案すると、グリフィスは視線をこちらへ移した。何か思案するように目を細め――けれど承服するつもりがないことが表情から見てとれた。
「いいえ、貴方がたに任せるわけにはいきません。キーネス殿が集めてきた情報は私が買い取りましょう。シリルさん救出は我々が行います。ご安心ください」
 グリフィスは有無を言わさぬ口調でそう告げる。それにゼノが、
「でもすぐには無理だって――」
 と反駁しようとしたが、グリフィスはそれにやんわりと返した。
「すぐには無理ですが、出来るだけ速く救出部隊を出します。お気持ちは分かりますが、焦ったところで良い結果は出ませんよ。リゼ殿も。貴女が向かったからといって必ずしも良い結果になるわけではありません。協力すると言った以上、単独行動は困ります」
 諭すように言われたが、リゼは異論を述べる様子もなく無言で視線をそらす。納得したのか、これ以上話をする気がないのか。――後者の可能性が高そうだが。
「ともかく、今回の件については調査も含めすべてこちらにお任せください。貴方がたには魔物討伐を手伝っていただいたお礼もしたいですし、フロンダリアにゆっくり逗留なさってください。この騒動で十分なおもてなしは出来ませんが、出来る限りのことはさせますので」
「一つ聞いていいですか」
 グリフィスの言をさえぎって、険しい目つきをしたオリヴィアがそう訊ねた。剣呑な視線に、グリフィスは怪訝そうな表情をする。
「あの黒服がやって来た時、この館の兵士はどこにいたんですか。あれだけ大きな音を立てたのに誰も来ないし、この館の警備はどうなっているんです?」
「申し訳ありません。結界の不安定化と魔物の襲来で兵士達は出払っていたのです。結果、貴女を危険な目に会わせてしまったこと、深くお詫びいたします」
 グリフィスの謝罪に、オリヴィアは目を閉じる。数瞬だけそうしてから目を開けると、彼女は明るい声で言った。
「いいです。気にしてません。混乱に乗じてやって来た卑怯者のせいですから。ただ」
 そこでオリヴィアはにっこりと、気迫すら感じられる笑みを浮かべた。
「ただ、腹が立ってしょうがないんです。あの子の誘拐に関わった輩は全員つるし上げないと気が済まないくらいには」



 ゆっくり逗留を、という言葉通り、アルベルト達は賓客としてのもてなしを受けた。といっても、フロンダリアに来てからの三日間とさして変わることはない。魔物襲撃の後始末で慌ただしかったにも関わらず、もてなしの質が落ちることはなかった。変わったことといえば、オリヴィアが警備について言及したためか、部屋の前に警備兵が配置されるようになったことだった。再び悪魔教徒達が襲撃してきても対処出来るようにするためだろうが、その弊害で外出するのも容易ではなく、逐一許可書を取らなければならなくなったのが難点だ。いっそ外に出なければいいのだがそういう訳にもいかず、その被害を一番に被ることになったのはティリーだった。
「フロンダリアは悪魔研究もしていますのよ」
 出るときに外出先をしつこく聞かれ、出先にもずっと兵士がついてくることになった時、ティリーはうっとうしそうにぼやいた。
「研究家のわたくしが研究所に行くなんて当然のことじゃありませんの」
 まあ魔物襲撃の騒動の最中とはいえ、たくさんの兵士が詰めているグリフィスの館に悪魔教徒が侵入したのだから、警備が厳重になるのも無理はない。けれどそれが過剰気味なのも事実で、よほどの理由がないと外出そのもの自体が許可されなかった。ちなみにティリーが外出できたのは根比べに勝ったからである。
 そうして、二日がたった。
 たった二日だったが、やることのない二日というのは存外長い。シリルが誘拐されているから、ゆっくりしようにも出来ず、魔物の死骸の処理を手伝おうかと申し出てみたものの、客人にそんなことをさせるわけにはいかないと却下されてしまった。最もである。さりとて他にすることはない。ゼノがいる間は(焦りをごまかそうとしているのか)よく喋る彼の話に付き合っていたのだが、ゼノが退治屋同業者組合に仕事のことで呼び出されていってからは、やることといえば旅続きで満足にやれていなかった剣の鍛練と客室の本棚にある本を読むことくらいだった。
 だから、ゼノ不在時に当然兵士が訪ねてきたその時も、アルベルトは本を読んでいた。例のミガー童話集の続きで思った以上に面白く、しばらくノックに気付かないほどだった。一度目よりも大きなノックが響き渡ったところでようやくそれに気付き、アルベルトは慌てて扉を開いた。
 扉を開けると、そこにいたのは、いつもグリフィスの傍に控えている物々しい雰囲気を纏った兵士だった。一昨日、館の前でアルベルト達を注意したのも彼である。正方形を二つ組み合わせた八芒星――ミガーの紋章が織り込まれた軍服を一分の隙もなく着込み、腰には使い込まれているらしい剣。軍人の鏡ともいえる完璧ないでたちだ。彼は眉を寄せ、鋭い目つきでアルベルトを見据えている。
「何でしょうか」
「殿下がお呼びだ。さっさと来い」
 吐き捨てるようにそう言って、兵士は背を向けて歩き出す。呼び出しを伝えに来ただけだというのに、やけに険悪な雰囲気だ。
 しかしグリフィスが呼んでいるとは何だろう。呼び出される理由に見当がつかない。あの神殿の爆破犯についてだろうか。
「王太子殿下は俺に何か用があるのですか?」
 理由を知っているのではないかと、先を行く兵士に尋ねてみる。しかし答えは返ってこない。代わりに、酷く棘のある口調で命令するように言った。
「無駄口を叩くな。黙ってついて来い」
 振り返ることもせず、兵士は足速にグリフィスの執務室へと向かっていく。彼からは話を聞けそうにないので、アルベルトは大人しくその後に続いた。
 やがて今日で三度目となるグリフィスの執務室の前へついた。兵士が扉を叩くと、待機していた別の兵士が扉を開けて中へ招き入れた。入ってすぐ執務室がある訳ではなく、小さな控えの間を通らなければならない。控えの間に入ったところで、待機していた別の兵士から、先客との話が長引いているので少しお待ちください、と告げられた。
「先客?」
 確かに耳を澄ますと、扉の向こうからわずかに声が漏れ聞こえてくる。この声は――若者ではない、老人のものだ。ひょっとしてアルネス博士だろうか。覗き聞きする趣味はないが、何を話しているか少し気になる。
『アルネ――力の正体――判明し――』
『いいや――見当――つかん』
『――し、彼女は――では』
『分からん――失われている――――オルセインが――』
『それならばやはり――』
 案外この壁は薄いのか、聞き耳を立てていると切れ切れながら会話が聞こえてくる。力がどうかと言っているが、まさか話の主題はリゼのことについてだろうか。気になったが、さすがに扉へ張り付く訳にもいかず、じっと聞こえてくる会話の断片を拾い上げようとした。しかし、
「おい。聞いているのか」