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Savior 第一部 救世主と魔女Ⅳ

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 その言葉に、ゼノが見る間に明るい表情になり、オリヴィアはほっとしたような顔をした。ティリーはやっぱりと言いたげな顔をして腕を組んでいる。アルベルトも、シリルを助けに行くことに賛成だったから、リゼならそうするだろうという確信がありつつも、彼女が依頼を出したことにほっとする気持ちもあった。
 しかし、それに反対する声が上がった。
「待ってください! それでは困ります!」
 グリフィスは慌てた様子で立ち上がり、リゼを引き留めようとする。
「貴女には他にして頂きたいことがあるのです。少女救出の為だけに、貴女を出向かせる訳にはいきません。シリルさん救出はこちらで行いますから、貴女はフロンダリアに・・・・・・」
「私にして欲しいことって、悪魔教徒を倒すことでしょう。違う?」
 相手の言をさえぎって、リゼは問いかける。問答無用と言わんばかりの強い口調だ。押し黙ったグリフィスに、リゼはさらに続ける。
「だからシリルを追うのよ。追って、あの子を助ける。悪魔教徒が子供を誘拐して何をするかなんて決まってるでしょう?」
「――悪魔召喚」
 リゼの言わんとしていることに気づき、アルベルトはその単語を口にした。
 悪魔召喚。己が願いを叶えるため、この世に悪魔を呼び出す儀式。そのためには生贄が必要だ。場合によっては、村一つ、街一つが生贄となり、悪魔に喰われて消滅する。そこまで大がかりな召喚の儀式は稀だとしても、人攫いや行方不明者が続発する時、必ず近くで悪魔召喚が行われている。そして、攫われるのは往々にして子供や若い女性――誘拐しやすく、生贄にふさわしい生命力のある人達だ。少女であるシリルはこれに当てはまる。それに、
「シリルは“憑依体質(ヴァス)”だ。悪魔召喚の生贄として・・・・・・最適、なのかもしれない」
 そういう表現をすることははばかられたが、他に言葉が見つからなかった。悪魔に取り憑かれやすい。言い換えれば、他の人間と違って余計な抵抗がないシリルは、悪魔にとって非常に喰らいやすい存在だろう。
 以前、マリークレージュで行われた悪魔召喚のことを思い出す。あの時はたった三人の生贄で、広い地下室を埋め尽くし、複数の魔物を融合させて一体の強力な魔物になろうとするほど大量で強力な悪魔が喚び出された。またあんな蟲の悪魔が現れたら手が付けられなくなる。もし奴らが悪魔召喚を行うとしたら、周りに街も村もない場所を選んだりしないだろう。必ず人が多い場所、悪魔の餌場となり得るような場所を選ぶはず。そうなれば被害は大きなものとなる。それだけは阻止しなければならない。
「シリルを追っていけば、悪魔教徒がしようとしている悪事を潰せるかもしれない。それに、?憑依体質(ヴァス)?であるあの子を奪い返さなかったら、奴らに余計な手札を与えることになる。際限なく悪魔や魔物を呼び寄せてしまうんだから。そんなことになったら面倒だわ」
 淡々とそう言うリゼに、グリフィスは呆れと懸念が混ざった視線を向ける。彼は再び反対意見を出そうとしたが、その前に、キーネスが口を開いた。
「『シリル・クロウの行方を追え』。それが依頼でいいんだな」
 キーネスの確認に、リゼはためらうことなく頷く。それに、
「了解した。全力を尽くそう」
 どこか安堵したように、口元に心なしか笑みさえ浮かべて、キーネスはそう言った。依頼を受け、彼はすぐさま仕事へかかろうと扉の方へ向かう。しかしその時、突然扉が大きな音を立てて開いた。
「なるほど、お話は聞きました!」
 突如元気のよい台詞と共に現れたのは、メリエ・リドス市長付き秘書官レーナであった。グリフィスへの書簡を届けに来たという彼女は、早くもフロンダリアを発つ予定だったのか旅装束に身を包み、腰に手を当てて胸を反らしている。突然の登場に目を点にした一同を尻目に、レーナは話し始めた。
「お話は聞きました。女の子が攫われたんですね。で、それを助けに行かないといけないと」
 レーナはそこで言葉を切り、相槌を求めるように周りを見回した。全員があっけにとられて沈黙している中、たまたまレーナの近くにいたアルベルトは彼女と目が合ってしまった。なにやら期待を込めた目で見つめられている。
「まあ・・・・・・その通りなんだが・・・・・・」
「で、今からその人が行方を調べにいって、居場所が分かったらみんなで助けに向かうんですよね?」
「そうなると思うが、でもそれが――」
「なら、女の子をさらった奴らを追う足が必要なんじゃないですか? 砂漠に慣れている方ばっかりじゃないんですから、歩くよりも速い移動手段があった方がいいですよね」
 あいかわらず口調は軽かったが、レーナの指摘は決して見当違いのものではなかった。確かに、悪魔教徒達を追いかけるなら、彼らより速く移動する手段が無ければならない。もしそんな手段があるなら、活用しない手はない。レーナがいきなり割り込んできてそんなことを提案するこの状況は色々と驚きだったが、リゼは気になったらしく、レーナにその“手段”のことを尋ねた。
「そんなにいい方法があるの?」
「ありますよ。砂漠移動の専門家、カメル車を使う行商人の商隊にお邪魔するんです。その中でも一番速いところを知ってますから、なんならお願いしてきますよー。わたしもここまで乗せてきてもらいましたから。速さは保証しますよー。ここに来てすぐ隣町に行っちゃったんですけど、今なら追いかければ間に合いますから。ということで」
 レーナはくるりと振り向くと、ひきつった顔で硬直していたキーネスを目に止めて、ずんずんと歩み寄った。すぐ近くまで詰め寄られて、キーネスは反射的にか一歩引く。
「キーネスさんでしたっけ? 情報集めに行くんですよね? ついでにその商隊を紹介します。途中まで一緒に行きましょう!」
 引かれていると気付いていないのか気にしていないのか、レーナは一方的に話を進める。キーネスはやたらひきつった表情を浮かべながらも、彼にしては珍しく、文句ひとつ言わず素直にうなずいた。
「ま、まあ、そういう手段があるなら手配しておいてもいいな。案内を頼もう」
「決まりですね! では殿下。わたしは急ぎの用があるのでこれで失礼いたしまーす!」
 およそ王太子に対するものではない軽さでレーナは言い、執務室の扉へ向かう。キーネスは深々とため息をつきながらも、「数日中に連絡する」と言い残し、彼女の後を追って部屋から出て行った。
 怒涛のように現れては出て行ったレーナ(とキーネス)を見送り、執務室に再び静寂が舞い降りた。いきなりの登場と、いきなりの退場に、皆あっけにとられていたのだ。揃いに揃って馬鹿みたいに扉の方を見ていたが、やがてその静寂を打ち破るように、グリフィスが再び否定の言葉を発した。
「キーネス殿が調査に向かいましたが、私はリゼ殿がシリルさん救出に向かうのは反対です。シリルさん救出は重要なことだとは思いますが、なにも貴女が出向く必要はありません」
 どうやらグリフィスはよほどリゼを行かせたくないらしい。彼の立場と目的を鑑みれば当然か。
「なら、私達だけで救出に向かいます。それなら構いませんね?」