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Savior 第一部 救世主と魔女Ⅳ

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 シリルが誘拐された、と。
 そのことを聞いたゼノは、色を失って呟いた。
「誘拐・・・・・・? 一体誰に!?」
「人喰いの森の集落で襲ってきたのと同じ、黒い服着た奴らだよ。あいつらがいきなり襲ってきたんだ」
 体調の悪そうな青白い顔で、けれど酷く憤慨し瞳をぎらぎらと燃やしたオリヴィアは怒りの滲む声でそう言った。病み上がりな上、怪我までしてしまったにもかかわらず、オリヴィアは怒りのエネルギーでその辺りのことを感じていないらしい。見かねたキーネスが「気持ちはわかるが落ち着け」となだめたが、オリヴィアは、
「あいつら、二度も襲ってきた上にシリルを攫って行くなんて。ものっすごくムカついて落ち着いてなんていられないよ!」
 啖呵を切ってからやはり傷が痛むのか、包帯を巻いた頭を押さえる。なんでもナイフで斬りつけられ、さらに蹴り飛ばされた時、樫のテーブルで頭を打って気絶したらしい。黒服の侵入者達は命を奪う気はなかったのかそれとも急いでいたのか、そのままとどめを刺すこともせずシリルを連れて立ち去って行ったという。オリヴィアの傷は致命傷ではなかったものの、もし魔物退治が長引き、アルベルト達が戻ってくるのが遅れたら、出血多量で危なかったかもしれないことを考えると、そのうち死ぬだろうからわざわざ殺さなかったのかもしれない。
「黒服の集団・・・・・・ということはやはり悪魔教徒か?」
 アルベルトの問いかけに、オリヴィアは頷いた。
「間違いないよ。直接雷魔術を撃ちこんでやった奴の服が焦げて、ちらっとだけだけど左胸が見えたんだ。そこにあったんだよ。逆五芒星の印が」
 逆五芒星。それは悪魔を表す象徴(シンボル)だ。
 悪魔教徒はその身を悪魔に捧げる証として、身体のどこかに逆五芒の焼き印を押す。狂信的な信者ほど左胸、心臓の真上に施し、命すらも魔王(サタン)に差し出すことを誓うのだという。
「アルベルト殿が捕まえたあの神殿爆破の犯人ですが」
 その時、オリヴィアの話を静かに聞いていたグリフィスが口をはさんだ。彼は手を組み、机上の一枚の報告書に目を落とす。
「兵士からの報告によると、左胸に逆五芒星の焼き印があったそうです。間違いなく、悪魔教徒の印です」
 グリフィスによると、神殿爆破の犯人は捕縛した直後、他に爆弾を持っていないか身体検査した結果、すぐに悪魔教徒の印が見つかったらしい。爆弾もいくつか所持していたので、奴が神殿を爆破したことはほぼ間違いはない。
 ただ問題なのは、犯人は神殿を爆破した目的について何も語ろうとしないことだという。虚ろな瞳で遠くを見つめたまま、何を問うても話そうとしない。なお今も取り調べは続いているが、爆破犯は薄笑いを浮かべたまま外界からの刺激に一切反応を示さないそうだ。
「神殿爆破とシリルさん誘拐犯には何か関係があると言って間違いないでしょう」
「でも、目的は何ですの? まさかシリルをさらうために神殿を爆破したんじゃないでしょうから、混乱のついで、ということでしょうけど」
「分かりません。ただシリルさんを誘拐した者達が悪魔教徒なら、ティリー殿のおっしゃる通り、彼らの主目的は神殿破壊。シリルさんはついでで間違いないでしょう」
 確かに、シリル一人を誘拐するためにこんな騒動を起こしたりはしないだろう。結界を破壊して、ミガーに悪魔憑きを増やす。世を乱し、負の感情を蔓延させ、魔王(サタン)召喚の助けとする。グリフィスが先日言っていた通り、それが今回の神殿爆破の目的で、シリルは混乱に乗じて一石二鳥を狙ったのだろう。問題はその目的だが――
「王太子殿下! シリルの捜索をお願い出来ませんか? あの子のためにも、奴らに好き勝手させないためにも、力を貸していただければ――」
 悔しそうに拳を握りしめていたオリヴィアは、ほとんど身を乗り出す様にしてグリフィスに嘆願した。隣のゼノも一緒に「お願いします」と頭を下げる。ところが、二人の熱意とは裏腹に、グリフィスは済まなさそうに顔を伏せた。
「して差し上げたいのですが、現状を鑑みて今すぐという訳にはいきません。安定したとはいえ、フロンダリアの結界は弱まっている。街の防衛に力を尽くす必要があります。シリルさん捜索に割く余力があるかどうか・・・・・・」
 助力が叶わないことを知り、オリヴィアは悔しそうにうつむいた。同じように、ゼノも暗い顔をする。捜索に割く人員が確保できないのはどうしようもないことなのだ。そのことに二人は落ち込んでいたが、不意にゼノが何か閃いたのか、隣の悪友の方を向いて言った。
「キーネス! お前ならシリルの行き先を調べられるだろ!? 頼むよ!」
「そうだね。あんたならできるだろ! こんな目に合わされたんだ。あいつらをシメてやらなきゃ気が済まない」
 仲間二人に懇願され、キーネスは、
「・・・・・・ああ、そうだな」
 と呟くと、何か悩む様にうつむいた。歯切れの悪い相槌に、オリヴィアが目を細めて訊き返す。
「何か問題があるのかい?」
 キーネスはしばし考え込むように視線を逸らしたが、やがて懐に手を入れるとそこから白い封筒を取り出した。宛名も差出人も書かれていない、真っ白い封筒。それは今朝、彼に届いた手紙だ。
「今日来たウォードからの手紙。これに書いてあったのは直属の部下になれということだけじゃない。なった後、俺がするべきことも書いてあった。それは」
 手紙を懐にしまい、キーネスはすっと視線を移動させた。
「それは、『他に何があってもリゼ・ランフォードからの依頼を最優先にする』ことだ」
 突然名前を出されて、リゼは驚いたようにキーネスを見た。もちろん冗談を言っているわけでもなく、リゼはキーネスをじろじろと見回すと、ひとりごとのように言った。
「私からの依頼?」
「お前が知りたい情報を最優先で提供しろということだ。要するに俺はお前専属の情報屋になるということ。ウォードの目的が何なのか俺にもよく分からんが、?救世主?の便宜をはかるべきだと、ボスは考えているんだろう」
「それは本当ですか? キーネス殿。“影の情報屋”殿は、彼女に手を貸すつもりだと?」
「俺は指示されただけだから分かりません。ボスの考えなど読めたためしがないので」
 グリフィスの質問に、苦虫をかみつぶしたような顔で答えるキーネス。今までも意図の分からない指示に振り回されて来たのだろうか。苦々しげな表情でため息をついてから、改めてリゼの方を見る。
「そういうわけで、俺は勝手にお前以外の人間から依頼を受けて仕事をすることができない。そもそも俺はもう情報屋の資格を失っているからな。ゼノ達に依頼されても情報網を使えない。俺の進退はお前の意向次第だ」
「随分と押しつけがましいのね」
「悪いな。押し付けたいわけじゃないが、ボスの命令には逆らえない」
 リゼは腕を組むと、無言でキーネスをまっすぐに見つめた。突然、人の行動を決める権限を渡されて、彼女も少し戸惑っているらしい。ほんの短い間、何か考え込んでいたが、やがてリゼは迷うことなく答えた。
「なら、依頼を出すわ。――シリルを誘拐した悪魔教徒を探して。奴らの後を追う」