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Savior 第一部 救世主と魔女Ⅳ

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 アルネスはからからと笑いながらそう言って、部屋の中をぐるりと見回した。アルベルト達全員の顔を順番に見て留め、最後に一人の人物へ視線を固定する。
「さてさて、わしを呼んだ“魔女”とやらはおぬしかな。リゼ・ランフォードよ」
「・・・・・・」
 やや冗談めかした口調で問うアルネスを、リゼは無言で見た。何か考え込むように、何か確認するようにしばし沈黙したリゼは、何かを決意したような表情で口を開いた。
「アルネス博士。私は“虹霓と地に堕ちた星を抱く緋色の子”です」
 その瞬間、その場にいた全員がリゼの発言に首を傾げた。何かの文言のような言葉。何故リゼがそんなことを言ったのか、ティリーにも、グリフィスにも分からないようだった。しかしアルネスだけはその意味を理解したらしく、何か納得したように、
「ふむ、なるほど。わしは“風と光を奏する西の賢者”じゃ」
 リゼと同じように答える。そして博士はグリフィスの方へ向くと、悪戯っぽく笑った。
「さてさて王太子殿下や。どこか部屋を貸してくれんかの。付き添いはいらんぞ。可愛いおなごと二人っきりになりたいからの」
「はあ・・・・・・しかし」
「頼んだぞ」
 アルネスの有無を言わさぬ口調にグリフィスは苦笑する。
「ではこちらへ。――向こうの客間へ案内して差し上げなさい」
 彼が部屋の入り口に控えていた兵士に命じると、兵士は一礼し、アルネスとリゼを連れて部屋から出て行った。
 二人がいなくなったところでグリフィスは再び椅子に座り、今度はゼノ達を見て話し始めた。
「さて、次の要件に移りましょう。ゼノ殿、キーネス殿、オリヴィア殿。貴方がた――というより、キーネス・ターナー殿についての処遇が決まりました。仮決定ですが、これ以上変わることはないと思うので、お伝えしておきます」
 それを聞いた途端、ゼノ達の表情が変わった。 ゼノははっとして不安げな顔になり、キーネスは神妙な表情で話の続きを待っている。オリヴィアは無表情になってグリフィスの方を見つめていた。
 フロンダリアについた後、グリフィス達が行っていた事後処理は、退治屋達の処遇の他に、アスクレピアで起こったことの詳細を調べるということも含まれていた。それにはキーネスの処分の決定も含まれていて、ここ三日間ゼノとキーネスが入れ替わり立ち替わりどこかへ呼ばれていたのは、このためだったろう。グリフィスは引き出しから退治屋同業者組合(ギルド)のものと思われる紋章が入った封筒を取り出し、それをキーネスに手渡した。キーネスが受け取った封筒を開き、中身を確認したところで、不安げなゼノとオリヴィアに向けて言った。
「退治屋同業者組合(ギルド)の犯罪取締局は今回の件に関して、キーネス・ターナーの行動は重大な裏切り行為であると判断しました。よって、同業者組合(ギルド)は貴方のメダルを永久的に剥奪し、以後如何なる理由があっても二度と退治屋の資格を授与することはない――とのことです」
 それを聞いて、二人は驚いたような表情をした。キーネスも同様に、怪訝そうな顔で書状を見つめている。
「――それだけ?」
「あとは被害にあった退治屋達への賠償金の支払い命令がありますが、それだけです。退治屋同業者組合(ギルド)の決定は以上です」
 結果に不満――というより、思ったより軽い処分で戸惑ったのだろう。キーネスは「しかし――」と呟いたが、それをさえぎるようにグリフィスがこう言った。
「もう一つ、この件に関してある方から手紙が届いているそうです。――どうぞ、入ってください」
「はーい」
 グリフィスの呼びかけに答えたのは、やたら気の抜けた女性の声だった。続いて扉が警戒に開いて、声の主が入ってくる。その人物はグリフィスの机の横まで移動すると、朗らかに挨拶した。
「こんにちわー。あれ?」
「あら? 貴女――」
 訪問者の女性とティリーがお互いを見て各々声を上げた。アルベルトも女性が知っている人物であることに気づき、驚く。
「レーナ?」
「お久しぶりです〜ティリーさん、アルベルトさん」
 茶色の髪を揺らして、メリエ・リドス市長付き秘書官レーナは間延びした呑気な声で言った。たった今この街についたばかりですというような旅装束に身を包み、手には何かの包みを大事そうに抱えている。そんなレーナの様子を見て、ティリーが不思議そうに訊ねた。
「ゴールトン市長の秘書の仕事は?」
「ええ、ですから市長の伝令役をしてます。こちらのリーダーさんに大事な書簡を、ね」
 そう言って、抱えた包みから厳重に封をされた封筒を取り出し、ぴらぴらと振る。大事な書簡をそんな風に扱っていいのだろうかと心配になったが、レーナは気にした様子もなくにこにこと笑っているだけだった。
「いつもは郵便屋に任せるんですけど、今回は緊急で。ついでに、普通の郵便物も届けてくれって頼まれちゃいましたけど。というわけで手紙を預かってます。キーネス・ターナーさんという方に」
 レーナは包みから封だけされた宛名も何も書かれていない封筒を取り出しながら言った。名前を呼ばれたキーネスは怪訝そうな顔をしていたが、レーナが目の前に来て手紙を差し出した途端、その表情が凍りついた。
 どうやらキーネスは何かに酷く驚き、かつ恐れているようだった。理由は分からないが、酷く青い顔をして凍りついている。キーネスは差し出された手紙を受け取ることも忘れてしばしレーナを凝視していたが、「キーネスさん? どうされました?」と問われた瞬間、我に返ったのか手紙を受け取った。
「あ、ああ・・・・・・ありがとう、ございます」
 冷や汗をかきながらたどたどしくお礼を言い、キーネスは手の中の手紙に視線を落とす。何の変哲もない白い封筒だが、キーネスはまるで死刑宣告でもされたかのようにじっと手紙を見つめていた。
「・・・・・・キーネス? そのー読まないのか?」
 微動だにしない親友の様子を見て、ゼノは不思議そうに尋ねた。だが、キーネスの返事はない。ただ突っ立ったまま手紙を見つめ続けている。
「てか誰からの手紙なんだ?」
 ゼノの疑問にキーネスはしばし沈黙してから呻くように答えた。
「・・・・・・ウォードだ」
 初めて聞く名前に、ゼノは首を傾げた。他の同様だ。しかしキーネスは説明するつもりはないらしい。沈黙を続けるキーネスの代わりに、横からティリーが口をはさんだ。
「ウォードとは情報屋の元締め。この世のあらゆる情報を知っているといわれる影の情報屋ですわ」
「影の情報屋?」
「ええ。情報料さえ払えば国家機密ですら掴んでくるというとんでもない方です。何でも、ウォードは誰にも姿を見せず、誰にもその正体を明かさない。掟を破った情報屋は誰にも気づかれないうちに処分してしまう。客に嘘を教えて情報料をふんだくっていた情報屋が突然行方不明になったとか、悪徳商人と癒着して甘い汁を啜っていた情報屋が悪徳商人と一緒に簀巻きにされて川に浮かんでいたとか、いろんな噂がありますわね。真偽のほどは分かりませんけど」
 それを聞いたゼノはとんでもないことを聞いてしまったというような表情になると、キーネスに視線を移した。彼はまだ手紙を握った状態で固まったままだ。