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Savior 第一部 救世主と魔女Ⅳ

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「フロンダリアの研究家は優秀です。多くの時間を取らせることはしませんし、優先したいことがあるなら可能な限りお聞きします。私は、一刻でも早く悪魔教徒を捕え、悪魔を殲滅し、ミガーに安寧を齎したいのです。そのために、現状では貴女の力に頼るしかありませんが、貴女一人に責を負わせることはしたくない。貴女の能力の研究は貴女自身のためでもあるのです」
「・・・・・・」
「今すぐ決められないと言うなら考える時間を差し上げます。フロンダリアに着くまで時間がありますし、着いた後でも構いません。返事が決まったら、いつでもおっしゃってください。お待ちしています――」
 そうして、今日この会談に至ったのだった。
 なおフロンダリアに着いて三日後の今になったのは、リゼが返事を渋ったせいではなく、グリフィスの方が忙しかったからのようだった。アスクレピアでの事件の後処理が色々あったようだから致し方ないことだ。
「フロンダリアの研究家に術を見せろって話だけど、」
 リゼの声が、静かな部屋の中に響き渡った。
「あなたの言う通り、この力を他の人達も使うことができたらもっと多くの人を助けることができると思う。だからこの話、受けるわ」
 リゼがそう言うと、グリフィスは満足げに微笑んだ。リゼの隣に立つティリーが嬉しそうな表情をしているのは、術が見られるかもしれないからだろうか。アルベルトはといえば、前回は嫌だと即答したのに、今回は素直に(といっても大分時間が経っているが)受け入れたのが少々意外だった。何か思うところがあるのだろう。
 と考えていたら、リゼはグリフィスに向けて、「ただし」と付け加えた。
「ただし、その代わり条件がある。大勢の研究家に質問責めにされるのはまっぴらごめんだわ。術を見せるのは一人だけよ」
 要求を突き付けられて、グリフィスは考え込むように目を閉じた。しばらくそうしてから、目を開けてなるほどと頷く。
「お気持ちはわかりました。では希望はありますか?」
 要求が受け入れられたことが分かって、リゼは少し安堵したような様子を見せた。希望を問われて誰を上げるのかは分からないが、一人を除いてリゼに研究家の知り合いがいるわけでもないだろう。どうするのかと思っていると、彼女はある一つの名前を告げた。
「なら、この人を頼むわ。フランク・アルネス博士を」
 その瞬間、講義の声を上げたのはティリーだった。
「そ、そんな。わたくしじゃないんですのっ!?」
「あなたはうるさいから却下」
「そんな。酷いですわ! 出会って早数ヶ月。苦楽を共にしながらここまで来たというのに!」
 両手で顔を覆って大袈裟に泣き崩れるティリー。だが、リゼは気にした様子はない。ティリーを無視したまま、グリフィスの方を見る。
「で、アルネス博士を連れて来れるの?」
「その方になら、あなたの力を見せるのですか?」
「ええ」
「必ず?」
「そうよ」
 はっきりした肯定に、グリフィスは思案するように目を瞑った。しかしそれも短い間のこと。再び目を開けた時、グリフィスは優しく微笑んでいた。
「分かりました。お呼びしましょう。フランク・アルネス博士を」



「アルネス博士は現代最高峰の知識を持つ悪魔研究の第一人者ですわ! 現代魔物行動学、悪魔が存在することによる自然環境への影響。これらに関する定説は全て、アルネス博士が研究・提唱したんですわ。同じく研究家であるダニエル・オルセイン博士と並び、悪魔研究の双璧と謳われている方ですの!」
 やたら楽しそうに、かつ生き生きとティリーは説明した。そのテンションは、興味深い研究対象を見つけた時のそれと同じである。いつもこんなので疲れないのだろうかと、アルベルトはティリーの様子を見ながら感心してしまったくらいだった。
「まさかこんなところでお会いできるなんて! 一度で良いからお会いしたいと思っていましたけど、チャンスは思いがけない所に転がっているものですわね。本当に、夢のようですわ……」
 そう言いながらティリーは子供のように目を輝かせる。リゼが術を見せると言った相手が自分でないと分かった時にはあれ程悲しそうだったにもかかわらず、グリフィスがアルネス博士を呼ぶと言った瞬間速攻で立ち直ったのだから、なんというか、切り替えが速い。
「アルネス博士か。あたしも一度会ってみたかったんだよね」
 そう言ったのはオリヴィアである。ティリー程ではなかったが、彼女も期待に満ちた目をしていた。それを見たゼノが首を傾げて訊ねる。
「そんなにすごい人なのか? アルネス博士って」
「すごい人って……あのねえゼノ。あたしら退治屋が学ぶ現代の魔物の行動理論や対策法を見つけたのってアルネス博士なんだよ。あたしらが仕事しやすいのも退治屋の死亡率が下がったのもアルネス博士のおかげ。退治屋になる時に教わっただろ」
「そ、そうなのか? いや仕事に必要なことはちゃんと覚えたけど、博士の名前なんて覚えてもしょうがねえし――」
 オリヴィアに非難がましく睨まれて、ゼノはしどろもどろになりながら言い訳する。そんな仲間の様子にオリヴィアは呆れてため息をついたが、それ以上に辛辣な反応を示したのはティリーだった。
「博士を知らないなんて信じられませんわ」
 冷たく言い捨てられてゼノはさらにたじたじとなる。彼は必要なことだけ覚えようと思ったんだよ・・・・・・と言いつつ、助けを求めるようにキーネスを見たが、「知らないお前が悪い」と冷たく返されて、がっくりと肩を落とした。
 そうこうしているうちに、扉が開いてグリフィスが帰ってきた。
「お待たせしました」
 グリフィスはそう言って、扉の脇に立つ。開いた扉の向こうから、兵士に連れられて一人の人物が入ってきた。
 現れたのは禿頭に白い髭をたくわえた小柄な老人だった。杖をつきながら、けれどしっかりした足取りで歩いて来る。ゆったりしたローブには魔法陣と思われるものが多数刺繍され、ローブ全体を飾っていた。
 部屋に入ってきたアルネス博士に真っ先に駆け寄ったのは、当然ながらティリーだった。グリフィスが「こちらがアルネス博士です」と言い終わるな否や、
「博士! お初にお目にかかります。悪魔研究家のティリー・ローゼンです。今日はお会いできて光栄ですわ!」
 目を輝かせてそう言った。アルネスは視線を上げてティリーをじっと見ると、何か思い出したように言った。
「ローゼン? エレミア・ローゼンの縁者かの?」
「はい。エレミア・ローゼンはわたくしの母ですわ」
「ほう、あの子の娘か。母に似てなかなかの別嬪さんじゃな」
 ゆっくり髭をしごきながら、アルネスは続ける。
「エレミアは優秀な弟子じゃった。その娘ならばさぞや優れた研究家なのじゃろう。して、おぬしは何の研究をしておるんじゃ?」
「両親の研究を引き継ぎました。よろしければ、是非研究についてお話を――」
「すみませんが、お話は後にしていただいてもよろしいですか?」
 ティリーをアルネスの話が違う方向へ盛り上がりそうになったところで、グリフィスが苦笑しながらそう言った。
「おお、すまんすまん。目的を忘れるところじゃった」