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Savior 第一部 救世主と魔女Ⅳ

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「あーその、ティリーの話って本当なのか? 情報屋の元締めってそんなに怖いのか・・・・・・?」
「・・・・・・・・・・・・」
 ゼノは恐る恐る尋ねたが、キーネスは答えない。その様子を見て、
「え、マジなのか。おまえが怖がる相手なんてカティナさんぐらいだと思ってたのに」
 ゼノはますます驚いた様子で呟く。その横では、カティナさんってどなたですか? とシリルに聞かれたオリヴィアが「キーネスのお姉さん」と答えた。
「親が早くに亡くなったから、お姉さんが親代わりになってキーネスを育ててたとか聞いたよ。それで頭が上がらないらしいね。ゼノによるとものすごく優しい人らしいけどね。あたしは会ったことはないからわかんないけど。
 まー掟破りの部下を自ら処刑するようなボスは親代わりの姉とは別の意味で怖いだろうねぇ」
 オリヴィアはキーネスの方をちらちら見ながらどこか同情するようにそう言う。一方、ゼノはといえば日頃舌鋒鋭い親友が毒舌一つ吐かず素直に恐怖を認めたことに動揺を隠せないらしい。手紙を持ったままこわばった顔をしているキーネスを、目を丸くして見つめていた。
 しばらく凍結していたキーネスだったが、やがて覚悟を決めたのか手紙の封を切った。中から封筒と同じ白い紙を取り出し、思い切って開く。入っていたのは一枚だけだったらしい。しばし無言で手紙に書かれた文章を読んでいたキーネスは、最後まで行き着いたところで深々とため息をついた。
「ど、どうだった?」
 肩を落としたキーネスに、当人以上に動揺した様子のゼノが恐る恐る尋ねる。するとキーネスは、
「とりあえず、処刑は免れた。処分は情報屋の資格返上だ。失業というわけだな。だが、それで許されるなら安いものだ」
 心底安堵したという様子でそう答えた。その口調と表情から察するに、処刑がよほど怖かったらしい。いや、『ウォードに』処刑されることが怖かったというべきか。もし退治屋同業者組合(ギルド)の判決が死刑だったとしても、ここまで怖がらなかっただろうと思うぐらいである。
「ということは、特に刑罰とかはないんだな? 資格剥奪だけ? よかったじゃねえか」
 思ったより軽い判決に、ゼノが嬉しそうに言う。それを見たキーネスは再び手紙に視線を落とした。
「その代わり直属の部下になれと言われた」
「へえ、そうなのか。すげえな・・・・・・って、は!? 直属の部下!? なんなんだよそれ!?」
 資格剥奪なのになんで昇進してるんだ、とゼノは疑問符を大量に飛ばしている。それに対し、キーネスは仏頂面に戻って淡々と説明した。
「情報屋とウォードの部下は全く違う。情報屋は掟さえ守っていればウォードに干渉されることはまずない。だがウォード直属の部下は命令されたらどんな事情があろうと命を懸けてそれを遂行する義務がある。異論は聞かない。反論はもってのほか。命令には絶対服従。逆らったら今度こそ処刑。――ちなみに給料はない」
「あはは・・・・・・それって要するに奴隷じゃないか。あんたんところのボス、えげつないね」
 苦笑いを浮かべながら、オリヴィアはそう言った。それにキーネスは遠い目をして、
「それでも処刑されるよりはマシだ」
 と返す。ゼノはひきつった顔でそれを見ていたが、やがて無理やり笑顔を浮かべて慰めるように言った。
「そ、そうか。これからすごく大変ってことだな。そういうことならオレも手伝えることがあったら手伝うよ。シリルの護衛があるから、いつもってわけにはいかねえけど――」
「そのことですが、」
 その時、唐突にグリフィスが口をはさんだ。全員の視線が再びグリフィスの方へ向く。
「シリルさんはこちらで保護させていただきます」
 グリフィスの宣言にゼノは目を見開いた。当事者であるシリルもたった今知ったようで、目を瞬かせながらグリフィスの方を見ている。驚く二人をそのままに、グリフィスは話を続けた。
「シリルさんは“憑依体質(ヴァス)”であるとお聞きしました。悪魔に憑かれやすいその体質は、貴女自身だけでなく周囲にも被害を及ぼす危険なものです。
フロンダリアの魔術師にもその体質を治すことはできませんが、封じ込めることは出来ます。そのための施術をこちらで行います」
 そう言われては、反対する理由もないのだろう。
「・・・・・・分かりました。よろしくお願いします」
「そっか。その方がいいよな・・・・・・」
 少し寂しそうに、シリルとゼノはそう言った。今度こそゼノは落ち込んだらしい。すっかり静かになって、がっくりと肩を落としていた。
 それを最後に、グリフィスとの会談は終わりを告げた。



「あーあ、今頃なんのお話してるんでしょう。気になりますわ・・・・・・」
 アルベルトが静かに本を読んでいると、少し離れたところに座っていたティリーが、天井を仰いで切なげにそう言った。
 グリフィスとの会談が終わった後、アルベルト達は自室に戻ってきた。部屋の割り当ては男女別だったが、退治屋三人とシリルで話があるらしく(シリルと話があるのはゼノだけだが)、アルベルトは彼らに部屋を譲って、こちら側の部屋に来たのである。そして会談が終わってから長い時間がたつが、リゼは一向に戻ってこない。
「わたくしも術を見たいのにー博士とのお話も聞きたいのにー」
「後で聞いてみたらいいんじゃないか」
 本から視線を外してそう言うと、ティリーは不機嫌そうな表情になる。
「馬鹿言わないでくださいませ。リゼが教えてくれると思いますの?」
「いや、博士の方に。リゼは見せる相手を限定しただけで、力の謎を他の人に教えてはならないと言ったわけではないだろう?」
 そう言うと、ティリーはそのことに思い至っていなかったのか、ぽかんとした表情で二、三度瞬きした。
 アルベルトが見る限り、どうやらリゼは研究家や魔術師達によってたかって質問されるのが嫌なようで、何がどうあっても人に見せたくないというわけではないように思える。実際、リゼは必要ならばティリーの前でも術を使っているし、悪魔憑きを前にしたらむしろこちらが止めない限り、隠すことも考えず悪魔を祓おうとする。仮に術の謎を解明することによってより多くの人を救えるかもしれないと確信できるなら、リゼはためらうことなく研究に協力するだろう。
「ならやっぱりわたくしに見せてくれてもいいじゃありませんか・・・・・・別に秘密にしろと言われたら守りますわよ。こう見えても口は堅いんですのよ・・・・・・」
 そう言うと、ティリーは肩を落としうなだれる。ティリーの場合、術の秘密を解明した後どうするのかが問題なのではなく、研究の段階でうるさいのが問題ではないのかとアルベルトは思ったが、さすがにそれを指摘するのはやめておいた。
「・・・・・・ところで、なんで童話なんて読んでるんですの?」
 アルベルトの手の本を見て、ティリーは不思議そうに言った。客間の本棚にあった革張りの立派な本だか、中身は至って普通の童話とお伽話を集めたものである。だが、ミガーの童話やお伽話を一つも知らないアルベルトには、なかなか新鮮だった。
「なんとなく読んでみたら面白くて。やはり、アルヴィアの童話とは話の雰囲気が違うな」