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夏目 愛子
夏目 愛子
novelistID. 51522
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Modern Life Is Rubbish ギリシャ旅行記

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 さらに待つこと20分ほど。これはもうさすがに遅い。何らかの状況報告があってもいいはずだ。パーキング・ガイはもちろんみんなとのダベりに忙しい。それでもさすがにと思い、またこちらからヒアリングに行く。
 
 「うーん、今さ、まだ友達から連絡ないんだ。ちょっと待っててくれよ」
 
 本当に、その友達にガソリンをもってくることを依頼したのか、それすらよくわからない状況報告である。さらに、感情も何もない話し方でもある。まったく、この男を信頼して待っていて、よいことはあるのか?
 
 それから10分経っても、パーキング・ガイから私たちに報告に来る気配はない。さすがにもう1時間だ。クラブの中に入らないと楽しい夜も終わってしまう。
 ねえ、いったいどうなったの?
 
 「ああ、あの件ね。君たちね。ああ、友達、やっぱり、ガソリン持って来られないって」
 
 あっけない幕切れである。さっき状況を訊いてから10分しか経っていないのに、まるでこの件を忘れていたかのような表情である。本当にそもそもその友達とやらに訊いてくれたのだろうか?もちろん、親切心で動いてくれたこのパーキング・ガイに文句を言える立場ではない。しかし、それでも彼はソーリーも言わず、笑顔も見せず、悪気も一切なく、自発的に状況報告をしてくれるのでもなく、まったく何を考えていて何を覚えているのか、きわめて謎な男だった。本当に一秒一秒、記憶がリフレッシュされて、何も覚えていない、何も感じない。何を言っても響かない。それでも一瞬一瞬を真剣には生きている。そんな男であった。
 
 無理とわかれば、もう、夜を楽しむしかない。そして、ガソリンのことは朝、なんとかバスかタクシーかで早朝にガソリン・スタンドに行って入手するしかない。
 
 カヴォ・パラディッソのこの晩のDJは、Agent Gregという男と、もう一人別の男だった。Agent GregのDJは素晴らしかった。彼個人の好みの選曲は、渋めだが盛り上がるハウスである。ただ、客にあわせて、ヒットチャート曲をリミックスしたような、より、場を盛り上げるような曲も、時おり場の雰囲気をみながら混ぜてくる。フロアもだいぶ盛り上がって、私たちも踊りまくっていた頃、おどけた踊りを絶え間なく続けて相手の女性を常に笑わせている、これまたお調子者の男がいた。トロピカーナで恋人の背中をぐいーんとやっていたイタリア人を思い出し、私たちはこのお調子者もイタリア人だと決めつけた。
 
 カヴォ・パラディッソにも、ゲイの人たちは多くいたように思う。ただ、ゲイの人たちは、人前でキスを交わしたり、ということはしないようだった。あくまで私がミコノスにいた間ではあるが、たくさんのゲイの人たちを見かけたが、ほとんどの人たちが本当に鍛えられた美しい肉体を有しており、清潔感があって、そして人前でのキスというのはなかった。
 
 そしてカヴォ・パラディッソには、レズビアンもいた。レズビアンというのはゲイよりも見た目や雰囲気でわかりづらいと思う。だから、ミコノスの街中では、あまり気付かなかった。しかしカヴォ・パラディッソではこれとわかるレズビアンを目にした。金髪のやや品の悪い派手なドレスを着た中年白人女性と、おとなしそうな黒髪の20代とみられる白人女性。二人は久しぶりの再会といった様子で、オーマイガー!的な大げさなリアクションの後、人目をはばからず、フロア脇のテーブル席あたりで抱き合い、長い長い長い長いディープキスをした。舌をからませる様子が見えた気がした、それくらい激しいキスだ。
 同性を愛そうと、異性を愛そうと自由だし、どんなキスをしたって自由だ。
 
 ただ、問題はこの後だった。
 
 しばらく私たちがフロアで踊った後のことである。私はトイレに行った。トイレの入り口には、外国ではたまに見かける、トイレットペーパーを渡す代わりに小銭を物乞いするような女性がずっと無言かつ無表情で突っ立っていた。このトイレットペーパーレディはかなり大柄で、それなりの威圧感がある。これはクラブの人間でチップを要求しているのか?あるいは個人で物乞いとしてやっているのか?よくわからない。とにかく、彼女をスルーして、私はトイレの列に並んだ。トイレは右に2つ、左に2つで、合計4つしかなく、カヴォ・パラディッソは人であふれかえっていたので、結構な人数、10人ほどの女性が並んでいたように思う。
 
 と、そのときである。並んでいた列の、とある女性が、後ろからカツ、カツ、とヒールで歩いてきて、大声で「ああー、もう、我慢できないわよ!こんな長い列!」と叫ぶように愚痴っている。並んでいる私をそのまま通り越して、右2つ左2つのトイレの間のスペースまで彼女は歩いて行った。
 
 そして、そこで、である。
 
 なんと、彼女はその場で下着をおろして、座り、用を足し始めたのである!!!
 
 10人もの女性が並んで見ている中で、である。
 
 しかも彼女は後ろもむかず、並んでいる私たちを凝視しながら、用を足しているのである。
 
 「ああー、もう、こんなの我慢できるわけないじゃない、ねー!ああー、すっきりした・・・」
 
 とかなんとか言いながら。
 
 これは、驚愕の光景だった。
 
 驚愕の中、なんか見たことある人だなあと思ってよく思い出すと、この女性は例のレズビアンカップルの金髪中年白人女性だった。
 さすが、品のないドレスを着ているだけある。
 いや、そういう問題でもない気もする。
 とにかく、わたしは前代未聞の嫌悪感を抱えてトイレを後にしたのだった。
 
 そしてその後、私はさらに衝撃的な絵を目にした。
 これは下品さはまったくない。
 ただ、ある意味では先のトイレレズビアン女以上の衝撃だった。
 
 再びフロアで踊って盛り上がっているとき、キュッと巻いた真っ赤なバンダナがひときわ目立つ、柔らかそうな金髪を超短髪にした若い男が、誰かを探すように、目を丸くしてにこにこしながら、それでも音楽にはのって踊りながら、やや不自然とも思えるガニ股で、うろうろと歩き回っていた。バンダナはカチューシャ風に下から上に巻かれて、頭の右上でピョンッとリボンのようになっており、彼は背は低めだが顔は愛嬌のある可愛らしい顔をしていたため、きっと愛されるべきお調子者といった感じでバンダナを巻いたのだろうといった雰囲気だった。10分ほどして彼を再び見かけたときには、きっと探していた相手なのだろう、いかにもガーリーな雰囲気の可愛い女性と一緒に微笑みながら踊っていた。
 
 私たちもまだフロアで踊りながらではあったが、その二人が踊っている光景を眺めていると、なんとなく私は目が離せなかった。なんというのか、とっても美しかったのだ。それと同時に、何らかの違和感が彼らのまわりから感じられた。彼のそのガニ股な身のこなしと彼の美しさとが、何らかの矛盾を起こしていたのだ。
 
 しばらく見ていて、私は思った。
 
 この人は本当は女性なのではないか?
 
 このガニ股には、何らかの無理がある。