Modern Life Is Rubbish ギリシャ旅行記
3.パラダイス・ビーチとスーパー・パラダイス・ビーチ
2013年8月30日 金曜日
●1.流される
ミコノス2日目。
この日はビーチ三昧だった。
昨晩、カヴォ・パラディッソを探すのに散々お世話になった、パラダイス・ビーチとスーパー・パラダイス・ビーチだ。
どちらのビーチもパラソルとサンベッドがほどよい距離感で設置されていた。パラソルは、どちらのも茶色のやしの葉のような葉っぱが連なっている、モルディブやタヒチにありそうなタイプ。リゾート感が高まる。
パラダイス・ビーチは、昨晩目印となった「トロピカーナ」という有名なクラブがビーチ内に存在し、一日中鳴り響くパーティー音楽が海に入っていても聞こえてくる、にぎやかで陽気なビーチだ。
ここでは、浮きベッドというのだろうか?長方形で大人が寝そべることができる大きさの浮き輪に、二人でつかまって、遠くまで泳いで遊ぼうとしていた。ところで、海に出たとたん、夫がカメラを忘れたことを思い出した。水中でも撮影できるカメラで、これは旅行では必須アイテムである。
「カメラ取ってくるから浮き輪にのっかって待ってて」
「オッケー」
うつぶせにその浮きベッドに乗っかったわたしは、太陽の光と強い風を浴びながらとても心地よくなり、うとうとしていた。
夫の戻りをなんとなく遅いなあ。とぼんやりと思いながら。
はっっっ!
気づいてビーチのほうを見やると、砂浜は遥か彼方にあった。
夫の姿はもはや小さすぎてほとんど見えないが、ごそごそとビーチ・バッグの中をカメラを探しているような姿がかろうじて見える。
「おーい!ちょっとー!」
たくさんの人が遊んでいる中で、こんなに沖まで来ている人は他にいなかった。
わたしは焦った。というか、怖かった。
泳ぎには自信はある。ある程度は。ただ、わたしの強大な想像力は、こんな深いところまで来て、もしもサメとかマグロとか大きな魚が近づいてきたらどうしよう!という恐怖心にまで到達するのに一秒もかからなかったと思う。
もはや、泣きそうだった。
必死に浜のほうへと手で漕いだ。
夫はのんきに今頃、海に入ってきたようだった。「あったよ!」と言っているのか、カメラを誇らしげに上で持って手を振っている。
夫と私の距離がだんだん縮まってくる。
夫の顔はめちゃくちゃに笑っている。
一方で、私の顔はかなりの形相で、必死さと泣きそうなのとが混じっている。
「めっちゃ泣きそうになっとるじゃん!」
と笑う夫。
「もう!何しとったん!?めちゃ怖かったんよ!」
どうやら、カメラが見つからず、それでも探していたのはものの2〜3分だったらしい。それが、ミコノスのこの強風で浮きベッドが思いのほか遠くまで流されてしまった。
「ちゃんと女として守ろうとしてくれてないから、こんなことになるんよ!」
これがわたしの言い放ったずいぶんと勝手な一言だった。
この「海流され事件」は、笑いのほうが大きすぎて、喧嘩にはならなかった。
このようなハプニングがありつつも、後になってみれば笑えるレベルであり、パラダイス・ビーチは、海から見ると、にぎやかなクラブと、緑のない茶色い乾燥した山肌と、ところどころにギリシャらしい真っ白な建物が見える、個性的な楽しいビーチだったと思う。
そのあと、昨晩とはちがって迷子にならずすんなりと到着したスーパー・パラダイス・ビーチも、ゲイの比率がより多いことを除けば、風景はよく似ていた。スーパー・パラダイス・ビーチでは、ビーチサイドのクラブで、ゲイの人たちが、いわゆる「お立ち台」に乗っていた。それから、ゲイの王様と呼んでもよさそうな、全身黒の網タイツで、白のファーを首にまき、サングラスをした男性が、あらゆるその他のゲイの人たちと一緒に、威風堂々たる様子で写真撮影会を楽しんでいた。
夜は、私たちの城であるホテルのすぐ近くの、六本木にでもありそうな、広くて開放感と清潔感のあるレストラン、「Avli Tou Thodori」というお店で食事をとった。ムサカとシーフード・スパゲッティをいただいた。ムサカは、ナスとじゃがいもと挽肉とベシャメル・ソースを重ねてオーブンで焼いた、グラタンのようなラザニアのような濃厚な料理である。ギリシャだけでなくお隣のトルコの料理でもあるらしい。ここの食事はスパゲッティがアルデンテでないことを除けば、とっても美味しかった。
海主体の日だったのに、海の水自体のことを書き忘れてしまった。
パラダイス・ビーチもスーパー・パラダイス・ビーチも、海はエメラルド・グリーンで、かつ透き通っていた。とても美しいと思ったが、まだこれはギリシャの海の最高の美しさではなかったことを私たちは後日知ることになる。
作品名:Modern Life Is Rubbish ギリシャ旅行記 作家名:夏目 愛子