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夏目 愛子
夏目 愛子
novelistID. 51522
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Modern Life Is Rubbish ギリシャ旅行記

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 二人乗りバギーでミコノス・タウンまで行って、ミコノス・タウンを歩いてぶらっとして、それからリトル・ヴェニスと呼ばれる小さな入り江のすぐ海際に小さなカフェ・レストランがぎゅうぎゅうと連なっている場所で、早めの夕食をとった。
 席はもちろん、海のすぐそばのオープン・テラス。
 室内で食べているお客さんはいない。みんなオープン・テラスが大好きだ。
 まだ空は明るい。ヨーロッパの日は長い。
 
 白ワインに、グリーク・サラダと魚介グリルの盛り合わせプレート的なもの。
 レストランのウェイターは、片言の日本語で「ケイコサーン、イチバンキレイー。ケイコサン、ワタシノガールフレンド、ニッポンジーン」と、本当か嘘かよくわからない、いかにもなお調子者・対日本人・ビジネス・トークで多少うっとうしい愛嬌をふりまく。
 しかしその俗っぽい接客とは裏腹に、とにかく、魚介、特に白身魚は、身がしっかり厚くてぎゅっと密度が高い感じで大味だけれど素朴でおおらかなおいしさが口の中に広がった。
 そうして夕食を楽しんでいたとき、とあるゾルバ・グループが私たちの目に入ってきた。隣のレストランだが、みんなオープン・テラスだし、結構本当にぎゅうぎゅうとお店が隣接しているので、まあ同じレストランのようなものだ。
 
 このゾルバ・グループは3人グループで、全員がそれぞれ異なるタイプのゾルバだった。
 
 一人は、典型的ゾルバ(ゾルバ?)。丸顔でスキンヘッドで背が低くごつい、上半身は文字通り裸で、毛のほうは無論毛深く、肩毛まで生えている。年齢もゾルバ的には頃良い40代と見える。
 
 もう一人は、おしゃれゾルバ(ゾルバ?)。中肉中背で髪は短髪、ネイビーのタンクトップを着ており、サングラスをかけ、やや洗練されている。しかし、肩毛は生えており、ゾルバであることは隠しきれない。こちらは最も若く、おそらく30代。
 
 最後の一人、こちらは白ゾルバである(ゾルバ?)。通常のゾルバは、顔は白人寄りだがエーゲ海のきらきら太陽により肌の色は褐色に近い。しかしこの白ゾルバは、めちゃくちゃに白人であった。多少の肌の病気を患っていたのかもしれない。いわゆるアルビノ的な白さがあった。アルビノ的な肌に、ふさふさとした白髪を生やしていた。彼は50代、または60代、いや70代かもしれない。かなりの老いが感じられる。
 
 彼らがどういった集まりなのかは最後まで解き明かされなかった。
 ミコノスの他の男性同士のグループと同様、ゲイの確率が高いのか、しかしゲイにしては、ゾルバ?とゾルバ?はあまりに美的感性に乏しいように見える。ゾルバ?は粗雑すぎるし、ゾルバ?はあまりに特殊すぎる。
 
 よく観察していると、白ゾルバであるゾルバ?がトークの主導権を握っているようで、その病弱そうな外見とは裏腹に、よく飲み、よくしゃべっている。年長者の功であろうか。それから、おしゃれゾルバ(ゾルバ?)は、そのトークを熱心にきいているようである。こちらもよく飲んでいる。そして典型的ゾルバなるゾルバ?はというと、他二人の話をきいているのかきいていないのか、とにかく終始下を向き、皿の上のロブスターと熱心に格闘していた。丸っこいその手をさらに丸めて、ロブスターの殻をとっては口に入れ、また殻をとっては口に入れ…。とにかくマイペースであった。
 
 私たちがあまりに熱心に観察し、また時に彼らの写真もこっそりと撮っていたことから、最後には目が合って、私たちの彼らへの尋常ない注目が日の目に晒されてしまった。
 ゾルバ?は見た目どおり最も愛嬌のある性格らしく、私のほうに満面の笑みを浮かべて歩み寄ってき、握手を求めてきた。私は握手しながら、最もシンプルかつ気になっていたことを質問した。
 「あなたは、ここのミコノスの現地の方なのですか?」
 「俺はアテネの人間だよ。アテネからよく来るんだよ」
 なるほど。現地ではないが、やはりギリシャ人ではあり、やはりゾルバではあった。その確認ができただけで私は満足だった。
 
 そのあとはまたミコノス・タウンをぶらっとして、同じリトル・ヴェニスに戻ってきて、夕陽をゆっくりと眺めながらお酒だけいただいた。同じことをしていてもぜんぜん飽きない。ゆっくりと流れる美しい時間。

 
●4. 星空と異次元空間
 元祖パーティー・アイランドとの前情報も得ていたことから、夜はもちろんクラブ!ということで、最も有名だという「カヴォ・パラディッソ」に向かう。結論からいって、この日のパーティーはあまりよくなかった。選曲がイケイケで、私たちの好みではなかったというのが一番の原因。
 
 それよりも、私がとても印象に残っているのは、「カヴォ・パラディッソ」にたどり着くまでのバギー道中である。
 私たちがホテルを出発したのは、おそらく夜の11時か12時頃。
 「カヴォ・パラディッソ」はスーパー・パラダイス・ビーチ(すごい名前である)付近にあるということで、スーパー・パラダイス・ビーチをめざしてバギーは進む。ミコノス・タウンまででも20分程度で着くので、地図上の距離的に考えると、20分、多くかかっても30分程度で到着する予想である。
 
 向かってみると、あまりに標識が少なく、道はくねくねで、自分たちが今どのあたりにいるのかもわからないばかりか、どちらに向かえばよいのかもわからない。一つ道を間違えると、道ではない道のようなところに入ってしまったり、文字通りの迷子になってしまう。
 
 それでも、雲ひとつないミコノスの夜空は、みあげるとあふれんばかりの星が輝いていて、夜の黒い闇はとてもクリアで、ヘルメットをかぶっていない頭に風は心地よく、バギーの後部座席に乗っかった私は、このままこのきもちいい時間がずっと続けばいいと体のどこかで感じていた。
 
 解放感。
 
 たぶんこの言葉が最も適切な気がする。
 もちろん、「カヴォ・パラディッソ」に辿り着きたかったのも確かだし、バギーを運転してくれている夫はきっと必死で道を探してくれていたのだから、こんな風に感じていたのは多少は不謹慎だったのかもしれないけれど。 
 
 ほとんどどこへ向かっているかわからない状態で進み続けて、30分かそのくらい経った頃だろうか、私たちは曲がりくねった坂道をどんどん登り続けて、かなり高い丘の上にまで来ていた。少し先には、オレンジ色の光の中に王様の住んでいるような堂々とした建物が見える。
 「あれがカヴォ・パラディッソじゃない?」
 「ね。たぶんそうよね?」
 
 期待に胸を膨らませ、坂道をバギーがうなりながら一生懸命に上る。頑張るバギーに愛着が湧いてくる。クラブの音楽はまだ聴こえてこない。人の気配も、ない。上れど上れど、近づけど近づけど、音楽は聴こえない。人の気配も、まだ全然ない。とうとう、その王様の棲みかのような立派な建物に着いてしまった。それでも音楽は聴こえない。もちろん、人は誰もいない。非情ともいえる静けさだった。私たちは、この建物がカヴォ・パラディッソではないということはほとんど理解していたが、それでも藁にもすがる思いで最後の確認のため、バギーから降りて、その建物の門のようなところまで歩いた。
 ――ホテルだった。