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霧雨堂の女中(ウェイトレス)

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 ※

「うおおぉい!」

突然ガランという大きな音ともにお店のドアが勢いよく開け放たれた。
同時にぶちまけられたのはそんなどこか快哉のような大声だった。

正直、全くの不意打ちだった私は驚いてその場でぴょんと跳び上がった。
それまでの気分をぶち壊してくれたのは、にっこにこの笑顔をした背広の男だった。
背広・・・そう、『背広』だ。
着るものについて、それを纏う人が名前を分けるとするならば、これは断じて『スーツ』ではない。
男の目尻には深い皺が刻まれていて、でも肌つやの感じからは壮年というにはまだ若く。
髪はボサボサで白髪が交じっているけれど、仕事帰りというには何だかちょっと違う。
私が店内の壁掛け時計をちらと見ると、時間は午後7時の少し前くらい。
そして、何よりも、

「おお、おったおった!来たでよ、おい!」

そう言いながら私など視界の端に入れる様子もなく、ずかずかと店内に歩みいるその男は、すれ違い様に強烈なくらいぷうんと甘いお酒のにおいがした。
そしてぐいっと右手を開いて突き出したかと思うと、応じるかのようにマスターは右手を出し返し、二人はずいっと握手を交わした。