霧雨堂の女中(ウェイトレス)
30分くらいしそうしていただろうか。
やがて、二人でいちど眼を見合わせると、それが潮になったようだった。
なんとなく照れ臭そうに微笑みあって、二人で同時に椅子から腰を上げた。
男性の方が先に歩きレジへとやってきたので、私が応対をしようとしたら、すっとマスターが自然な形でそこに入った。
「いつもありがとうございます」
マスターがそう恭しく二人に言うと、男性の方は慌てたように顔の前で手を左右にぶんぶんと振った。
「いや、僕の方こそ!僕たちがこうしていられるのは、今でもあのアドバイスのおかげだと思ってますから」
作品名:霧雨堂の女中(ウェイトレス) 作家名:匿川 名