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「私はこのお店に来るのは１０年ぶりなんです。
　いや、そもそもこの町に戻ってくるのがそれくらいぶりと言うべきなのでしょうか。
　彼には世話になったものですから、何とか一言礼を述べたかったんです。

　私が以前仕事でへまをしでかした時、彼が私に手をさしのべてくれたんです。
　この町をしばらく離れるよう進めてくれたのも彼でした。
　私はそれに従い、気がつけば１０年が過ぎていたというわけです。
　――実に、１０年ですよ？
　だけど、過ぎてみて分かることもある。
　彼の言うことは、勧めは、あのときの自分にとって実に正しかった。
　私は彼よりも年上だし、人生の機微も経験してきたと思っていたのだけれど、実際にはそんな自分よりも彼の言うことはずっと正鵠を射ていて、惑い、ぼやけるばかりの私の視界を補ってくれたのです。

　私の仕事は、ヒトの気持ちを知る必要があるモノで、そのために私は疲弊していたのかも知れません。
　私は自分の仕事に自信があった。
　誰よりも、時には私を頼り仕事を依頼するヒトの『その本人』よりも、その人の『心の形』を熟知していると思える時があった。
　だから私は慢心していたのでしょうね。
　つまらない失敗をして、しかもそれは――取り返しが決して、つかなかいものだった。

　あのとき、私は自分の失敗で――とある人を死なせてしまったのです」