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ひなた眞白
ひなた眞白
novelistID. 49014
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紺碧を待つ 神末家綺談3

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紫暮が隣に座り、まだクックッと声を殺して笑っている。瑞はその頭をぱしっと一発叩いてやった。

「盗み聞きしてんじゃネー」
「声が聞こえて目が覚めて、うとうとしながら聞いてただけ。でも・・・おまえがあんなこと言うとはねえ」
「・・・クソ紫暮、何が言いたい」

普段は澄ましているくせに、この男は笑い上戸なのだ。笑いのツボがおかしなところにあるので、長い付き合いであるはずの瑞でも時折理解できない気持ち悪さを見せる。

「おまえ、どう答えれば、あの子が喜んでくれるかわからないって、そう言いたかったんだろう」

そう指摘され、瑞は黙り込む。子どもの頃から聡かった紫暮は、他者の内面を読み取ることにも長けている。図星を指された。

「健気だな、あの子は。夜も眠らないおまえが楽しいと思えることをしてやりたくて尋ねたんだろうなあ。おまえはおまえで、そんなものないとか関係ないとか邪険に返せばいいものを。あの子を傷つけたくなくて下手なことを言えなかったんだ」

そうだ。そうなのだ。一生懸命に聞いてくる伊吹の視線がまっすぐすぎて、茶化したりからかったり、適当にはぐらかすことができなかった。こんなことは初めてだった。ものすごく戸惑う。

(何をしてるんだ、俺は)

先日の喧嘩といい、らしくないことばかりではないか。伊吹が相手だと、どうにもうまくいかない。自分の思い通りに進まない。真摯な思いをぶつけられればぶつけられるほど、伊吹の言葉をかわせなくなるのだ。

なぜかは薄々わかっている。伊吹が瑞を思いやろうとするからだ。大切に扱おうとするからだ。その感情に、戸惑う。そのストレートさに、戸惑う。穂積のように、相手に悟らせないスムーズな優しさや気遣いとは違う。不器用で、駆け引きも計算もない愚直さが、瑞をここまで戸惑わせるのだ。

「ま、思う存分悩むがいいよ。俺は寝る」

言いたい事だけ言って、さっさと布団に潜り込んでしまう紫暮。瑞は一人、縁側に座って自分の心を見つめる。伊吹と関わることで自身に起きた変化を、どう受け止めていいのかわからなかった。