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秋月かのん
秋月かのん
novelistID. 50298
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第1章  8話  『春斗覚醒』

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よかった…私…ヒナちゃん…守れた。
私の瞳から頬を伝い、一筋すっと涙が流れた。
でも…それでも…もう…ヒナちゃんは…。

再びどっと悲しみが押し寄せる。怒りで何とか抑えていたその悲しみも冷めてみれば脆くも崩壊し、私の心はとても弱くて耐えれないのだった。

それはまるで、ダムが崩壊したかのように涙が溢れ、顔をぐしょぐしょに汚していく。
もう泣いているのか、叫んでいるのかどうかすらわからない。
ただ声にならない声で嗚咽を漏らすだけなのだから。

「ケッケケケ。まさかとは思ったが、こうも容易く見事にいくとはな。貴様ら魔法使いの甘さには反吐が出るばかりだ。何故、こヤツを庇った??こヤツはもう死んでいるのだぞ??何を庇う必要がある??放っておけばよいではないか??ケッケケケ。それとも、無様に死んでいるコレでもまだ守ろうとでも思っているのか??くだらない」

そう言い放つと、覆いかぶさる私を撥ね飛ばし、横たわるヒナちゃんを蹴り飛ばす。

「やめてぇぇええええええっ!!!!!!ヒナちゃんを…ヒナちゃんを蹴らないでよぉおおおおおおおおっ!!!!」

私は、傷を負った身体を引きずりながら必死に立ち上がり、再びヒナちゃんに覆いかぶさる。

「フンッ!!!貴様らフォーリアの魔法使いは非情になれない。そして、その甘さが命取りとなるのだ。ケッケケケ」

醜悪な顔で私を見下ろし、耳障りなくらいに嘲笑う。

「う…うぅ…くっ!!」

ギリッと魔獣者を睨みつける。
大粒の涙が1つ、また1つと頬を伝って涙が流れ、そして、地面にポタポタと零していく。
悔しいのに…許せないのに…倒したいのに…。でも、私にはもう…。

「終わりだ…。今の貴様は我らの脅威にも値せん。死ねッ!!!」

魔獣者はゆっくりと大きな拳を振り上げて、そして、勢いよくそれを振り下ろす。

「…ヒナちゃん」

私は諦めて目を閉じる。アミーナの涙が一滴春斗の顔に降り注いだ。
だが、そのとき鼓動が、時が動き出す。


-ドクン。
-ドクン。
-ドクンッ!!!!!!


「な、何だ?」

あれ…?私、何ともない。でも、確かに魔獣者が私に向かって拳を振り下ろしたはずだ。
でも、どうして…?

「…いいかげんにしやがれ」

「…え?」

今…ヒナちゃんの声が…でも…ヒナちゃんは…。
え、どういうことなの?

「き、貴様はッ?!」

私ははっと顔を上げ、ゆっくりと目を開いた。
私は見た。はっきりと見えた。何を…ですって?
それは、あともう少しで私に向かって振り下ろされていた魔獣者の大きな拳を、魔獣者と比べて決して大きさでは勝てないけれども、私にはその姿は大きく見えた。

そう、その大きく逞しい姿が、私の前に私をかばうように魔獣者の大きな拳を片手で受け止めていた。でも、片手だけでなんてそんな…魔力も全然使えないのにどうして…?
しかし、こんな疑問はすぐに打ち消されてしまう。なぜなら、それよりも今は嬉しさと喜びに私は、満ち溢れていたのだから…。

だって、そこにはやられてしまったと思っていた彼の姿…ヒナちゃんの姿があったから。
そして、私は再びぽろぽろと大粒の涙を流してしまった。悲しいからじゃない。
嬉しいからだ。そして、私は、嬉しさの余りに彼の名を叫んでしまった。

「ヒナちゃぁぁああああんっ!!」

「…ば、馬鹿なッ!?貴様さっき我が息の根を止めたはず…確実にしとめたはずだ!!それが生きていられるはずはない…ましてや立ってることなど…。どういうことだ…」

魔獣者は、ヒナちゃんが生きていたことで計算が狂ってしまったのか困惑し始めていた。
そして、ヒナちゃんの形相を見て、魔獣者の顔が、さっと青ざめてわなわなと震えだすのがはっきりと見てとれた。

「あぁ?!息の根を止めただと?何寝ぼけかましてんだ、それとも寝ぼけてんのか、こら??この俺をなめるんじゃねぇッ!!このクズがぁぁあああああッ!!」

ヒナちゃんがもの凄い形相で魔獣者に向かって叫ぶと同時に、ヒナちゃんの身体全体が強く光りだした。禍々しい魔力が衝撃波に変え、魔獣者に襲い掛かる。

たまらず魔獣者はその巨体を吹き飛ばされる。

「きゃあっ!!くぅ…なんて凄い魔力…」

余りに強力な魔力だったので魔獣者は圧倒されてしまい、血の気が引いて青ざめた顔で震えながら立ち尽くしていた。そして、この私もこれだけの強力な魔力を全身で感じてしまって内心恐怖感も覚えていたのだった。しかし、それだけではない。

「…目が光ってる。ヒナちゃんの目が…光ってる」

そう、ヒナちゃんの目が紅く光り輝いていたのだ。

「これは一体…」

この魔力からはフォーリアの魔力もシェルリアの魔力も感じない。
もしかして、これが『鍵』の魔力だというの?…でも、この魔力は半端じゃない。
すると、ヒナちゃんはニヤリと不敵に笑みを浮かべる。

「な、何を死に損ないがッ!!いくら強がったところで状況は我が有利ッ!!足掻いたところで状況は変えられぬ!!」

魔獣者が空を一凪ぎすると、そこに無数の魔力が籠められた光弾のようなものがそこに浮遊していた。

「さぁコレを避けきれるか??言っておくが、ただの魔力の塊と思わぬことだな。この光弾は貴様を…」

次の言葉を紡ぐ前に、爆発が起きた。それも無数も。
誘発するかのように爆破されていく。

「ゴチャゴチャうるせぇんだよ。何だぁ??これがとっておきの技やら何とか自信に満ちたセリフを吐こうとでもしてましたかぁ??だけど、残念無念。手っ取り早く打ち落とさせてもらったぜ??ヒャハハ」

「…な…んだ…と」

「あれぇ??まさか本当に貴様のとっておきか??悪い悪い、そんなベタな展開だと思わんかったからよ。先手うって『っておい、話の途中じゃねぇか』とかツッコミ待ちを期待してたんだ。おいおい、そんな羽虫をにじり潰したようなクソまぬけなツラ見せてんじゃねぇよ??」

魔獣者はジリジリと歯軋りをたて、苛立ちを露にしていた。

「何故だ?!何故なのだッ!?話が違う!!今の貴様なんぞ我で十分であるとデータ上…」

「データだけが全てじゃねぇんだよ??データだけじゃ分からんことだってここにはあったってことさ。我のような古より与えしこの『力』はな??」

ケタケタと不気味な笑いをもらしながら、魔獣者ににじり寄っていく。
恐怖を覚えたのか、それを見た魔獣者は間合いが詰められるごとに一歩ずつ後ずさりしていく。

「…さぁて、おしゃべりはここまでだ。それじゃ貴様の浄化を始めようか。たかが魔獣者のゴミごときが…少々調子に乗りすぎたようだ。クク…この俺に働いた無礼の数々しっかりと倍にして返してやるぞ!!」

その瞬間、ヒナちゃんの身体が眩く光り輝く。
禍々しい魔力が春斗の身体を包み、炎のように燃え上がる。
そして、その怖いくらいに冷え切った表情に魔獣者、それに私も思わず震えがらせる。

「…な、何だ??何をするつもりだ」

完全にもう魔獣者は戦う意志も何も失せてしまい、ヒナちゃんにただ怯えていた。
ヒナちゃんは受け止めていた方の魔獣者の拳をぎゅっと力を入れる。
そして、ヒナちゃんの力によって魔獣者の拳は握り潰されてしまうのだった。