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秋月かのん
秋月かのん
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第1章  8話  『春斗覚醒』

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俺は煙で何も見えないため、どうしようもなくただ辺りをキョロキョロと見渡していた。
ミナは?バケモノは?…どこにいった?

俺には魔力だかなんだかの感知する力の使い方すら知らないからな。これじゃ探すにも俺にはどうすることもできん。-そのとき

「ヒナちゃん!!後ろ!!」

「何ッ?!」

ミナの声が聞こえて、咄嗟にバッと俺は後ろを向く。すると、煙でよく見えないがそこには大きなシルエットが映し出されていた。そのシルエットが何やら大きく動き出したので、俺は急いで後ろにジャンプする。その直後、俺のいた場所の床が砕け散って、大きな穴が開いていた。…危なかったぜ。

ミナが教えてくれなかったら、床じゃなくて確実に俺がしとめられていたな。

「チッ…。避けおったか…」

再びその大きなシルエットが煙の中に姿をくらます。

「くそ!これじゃまた同じじゃねぇか。俺にどうしろっていうんだよ」

周りは煙で見えない、魔力を感知する力の使い方がわからない。そして、何より俺は力を引き出せない。状況はさらに悪くなる一方じゃねぇか。

魔法の力が使えない今の俺はどうすれば…。…待てよ。確かに今の俺は魔法の力は使えない。でも、それ以外の力ではどうだ。

そうだ。俺には魔法の力が使えなくても『あの力』があるじゃないか。しかし、あのバケモノに通用するだろうか。

「ぐだぐだ考えていてもしょうがねぇ!!やってやるぜッ!!」

そう決意すると、俺はさっと目を閉じる。
バケモノの気配を感じられるように、微かな空気の乱れを感じられるように俺は心を落ち着かせて、身体全体の神経を耳に集中させる。

そして、俺の耳に静寂なときが流れる。
辺り一面はもの一つ音もなく、誰一人の気配もしないような空間が俺の耳から入ってくる情報によって俺の頭に映し出される。

よくこれをやるときに思うが、目を閉じて、心を落ち着かせるだけでこんなにも鮮明にはっきりと周りの状況が見え、そう、普通に目を開けているときよりもよく周りが見えてくる。
例えるとそうだな…あれだ!心の目で見るっていう感じだ。

俺も最初、速水さんにやらされたときは、嘘に決まっている、こんなこと馬鹿馬鹿しくてやってられねぇよと言いながら内心半信半疑でやったよな。でも、いざやってみるとおかしくて俺は大笑いしたっけな。…何でかって?それは、今のように本当に周りの状況が見えてきたからだ。それが、俺は何だか嬉しくなって、それからだな、俺がこれを始めたのは…。

明鏡止水。心が澄み切って落く。見えないものが俺には見える。
それが今、こんな形で使うことになるとはな。まったく、人生って何があるかホントわからんな。

俺はそんなことを考えながらも、さらに、辺りに気を配る。
そのとき、一瞬空気が乱れ、歪んだような感じが身体全体に伝わり、俺は身構える。

「…右かッ!!」

俺はさっと後ろにジャンプする。

「何ぃッ!!」

バケモノの攻撃はその場で空を切る。俺は、バケモノの攻撃を軽くかわすことに成功する。

「なぜだ…。なぜ、我の位置がわかったのだ?今の貴様には、そのような力など使えないはず…なぜだ?!」

「簡単なことだ。…気配だ」

「気配…だと?そんなもので我の位置を掴んだというのか貴様は」

「そんなものとなめられては困るな。お前らのおかしな力よりも凄いものと俺は思うぜ。そんな力だけに頼るお前らよりか遥かにな」

「…何だと」

「お前らは力ばかりに頼りすぎだ。確かに、その力は正確かつ頼りになるものだろう。でも、その力だけじゃわからねぇものもあるんだよ!!」

「負け惜しみを言いおって。例え、貴様のそのおかしな力で我の位置を掴めたとしても攻撃できないのでは意味がないぞ。ケッケケケ」

そうなんだよな。いくらこのバケモノの位置がわかってもこう煙で見えないんじゃ意味がない。って言っても俺が攻撃したところでバケモノに効くとは思えんがな。

「ケッケケケ。次は、さっきみたく上手くかわせるかな?お前のチンケなその力でな…ケッケケケ」

「ヘッ!!なめるなッ!!」

俺は、さっとまた身構える。

「ヒナちゃん!!今、助けに行きます!!」

煙のどこからかわからないが、ミナの声が聞こえてきた。…それは助かる。どうやら俺じゃてんで歯が立たなそうだ。後はミナが何とかしてくれ。そして、前方から微かな空気の乱れを感じ取った俺は、咄嗟に後ろへジャンプする。

「そんな殺気を出していたら姿が見えなくてもモロバレだぜ!こんなことしてる間にミナがお前を倒しにやってくるぜ。終わりだな」

「ケッケケケ。それはどうやら少々遅かったみたいだな」

俺の背後からバケモノの声が聞こえてきた。

「…な、何ッ!!」

何で後ろからバケモノが?!確かに、俺はさっき…。
…もしかして、俺が感じ取ったものはこいつの…。
俺が理解できたときにはもう既に遅かった。なぜなら…俺は…。

「ケッケケケ。これで、終わりだ!!」

「………ッ!!」

俺は、バケモノの攻撃を避ける間もなく、モロにバケモノの攻撃を受けて、どれくらいかわからないが空中を彷徨い飛んでいた。そして、俺の意識はそこで途絶えたのだった。





「な…何の音??今のすごい大きな音は??」

ヒナちゃんを助けに向かっている途中で突然、何かが砕け散るような大きな音がした。
私の脳裏に何だかいやな予感が過ぎる。
そして、今まで結界全体を覆っていた煙がゆっくりと晴れていく。まるで、私にその予感を確信へと導くかのように…。

煙が晴れたその向こうで私が見たものは、最悪な、そして、悲しさで満ち溢れていた光景が私の目に映し出されていた。私の目から大粒の涙がぽたぽたと頬を伝っていく。それは止まることも出来ないくらいにどんどん私の目から流れてくる。

なぜ?
だって…だって…ヒナちゃんが…ヒナちゃんが…。

そう、私の視線が向くそこには魔獣者の攻撃を受け、倒れているヒナちゃんの姿があったのだ。ボロボロになって額からも口からもたくさん血を流して、ぐったりと倒れている。

まるでショック死したかのように悲痛な形相なまま顔は硬直し、お腹は魔獣者の攻撃を受けてしまってくっきりと大きく風穴が開いてそこからも…。

とてもコレで生きているとは思えない。胸に耳を当てるが心臓も止まっていた。
それはつまり死。鼓動の停止は死を意味するのだった。

「…ぁあ…あぁああ…あぁああああああああああああああ」

私はもう見ていられなかった。気がつくと顔に手を覆っていた。
自分が泣いてるのか嗚咽を漏らしているのかすらももうわからない。
でも、ただひたすらもう声にならないくらいに私は彼のことを呼び続けていた。

「ヒ…ヒナちゃ…うぅ…ぐすっ…うっうっ…えぅ…うぅ」

私の顔は涙でぐしょぐしょになって、声を出そうにもそれは言葉にならなくて、ただその光景を受け入れられず呆然とその場に立ち尽くしていた。そして、それも長くは続かず、私は、まるで生気がない人形のようにがくっとその場に膝をつき、悲しさを押さえきれず泣いてしまうのだった。

「うわぁぁぁあああん!!ヒナちゃぁああああん!!」