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秋月かのん
秋月かのん
novelistID. 50298
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第1章  8話  『春斗覚醒』

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…ん?待て待て。もし、これが偶然でなく最初から仕向けられたものだとしたら?
でも、一体誰が…?…………………あッ。これは…もしかしてッ!!
-そのとき

「この反応はッ!!」

そうだ、あの時だ。まどかちゃんが突然いなくなったときに感じた、頭をピカーンと突き抜けるようなこの反応だ。すると、急にこの部屋の景色が歪みだした。…なんなんだ、これは?

「ほぅ…。我の術を見事に破るとはな。さすが、フォーリアとシェルリアの鍵というわけだな」

部屋が歪みだしたかと思うと、今度は荒々しく恐怖を感じさせる声が聞こえてきた。
…って何だ何だ一体!?
-その瞬間

そして、その変な幻聴と同時に俺の周りがいつか見た異質な空間に取り込まれる。

「これは…確か結界だったか」

でも、前見たのとは少し違う。これは辺り一面無色で何一つ物体は存在してなく、ただその異質な空間だけが広がっていた。

「一体これは…?」

俺が辺り一面をキョロキョロと見渡していると、そこに…。

「ケッケケケ。だが、どうして我の幻術を解くことができたのだ?いくらフォーリアとシェルリアのウィザードに劣るといっても、この幻術はかなり強力なものだったはずだ」

俺の前に突然、ばかでかい猛獣…いや、珍獣か。例えが面倒だから仮にバケモノにしとこうか。それが、俺の目の前に現れた。…って何なんだよこのバケモノは!?

てか待て待て!何でそんなバケモノが俺の前に現れ、俺に話しかけてくるんだ?
それに何て言った?幻術を解く?ホワッツ?何のことだ?
俺のそんな心のうちを読み取ったのかバケモノはクスクスと微笑み、再び口を開く。

「どうやら何のことか貴様は理解していないようだな。では、冥土の土産にでも教えてやろう」

「何をだ…」

俺は、もうこの状況についていけず何がなんだかワケもわからずただこのバケモノの言葉に耳を傾けていた。

「貴様はさっきまで我の幻術をかけられていたのだ。貴様にはまったく警戒の念がなかったから術をかけるのは実に容易かったぞ。…ケッケケケ」

俺にそんなものをかけやがったのかこのバケモノは。…って待てよ。

「俺に幻術とやらをかけたのは、『お前が』保健室に入ったときだろ?」

「ほぅ…よく気がついたな。でも、なぜ我だと気がついたのだ?幻術にかかっていた貴様が」

バケモノは俺がそれに気がついていたことに驚いていたようだった。
…やっぱり、さっき俺の中で引っ掛かっていたことはこのことだったのか。これでやっとわかったぜ。

「簡単なことさ。思い出したんだ、そして、その違和感に気がついたのさ」

そう、俺があのとき感じていた違和感をな。

「まず、お前の幻術とやらはホントに完璧に成功していた、これは本当だろう。俺自身全然気がついていなかったからな」

「それはそうであろうな。我の幻術は完璧だったはずだからな」

「そう。でも、お前は一つ重大なミスをしてしまったのだ。俺がその幻術とやらを解いてしまうくらい致命的なミスをな」

「何だその致命的なミスとは?」

「それは、お前が知ってか知らずかわからんが幻術の中に『まどかちゃん』を使ったことだ」

そう、さっき感じていた違和感とは、まどかちゃんだったのだ。

「ほぅ…。あの娘を使ったのがなぜ、我の致命的なミスに繋がることになるのだ?あの娘は貴様らの親しい仲であることは知っている。それがなぜ、ミスになるのだ?」

どうやらこのバケモノは知らなかったようだな。まどかちゃんが『ここに』いるはずがないことに…。

「まず、まどかちゃんはここに来るのはあり得ない。なぜなら、幻術の中では朝から体調が悪かったと言っていたが、それはない。その逆で今日朝会ったときはいつもより体調がいいと言っていたからだ。そして、まどかちゃんがいるのはここではない。俺の仲間の娘と今一緒に昼飯を食べているはずだからな」

そう、これが決定的なミス。俺がダルくて保健室に向かうときの冬姫の会話でこんなこと言ってたのを思い出したのだ。

『そうなんだ~。それじゃ、授業の始まる前に起こしに行った方がいいかな~?どうせ私、今からまどかちゃんと一緒にお昼食べるからそのついでに起こしに行ってもいいよ~。保健室通り道だから』

と冬姫が言っていたのをな。

「それに例え、まどかちゃんがそこで体調を崩したとしてもまどかちゃんを一人で保健室まで来させるなんて真似あいつがするわけがないからな」

根っからの世話好きな冬姫がそんなことをさせるはずが、まず、あり得んからな。
ダテにあいつの幼馴染を何年もやってないぜ。

「最後にッ!!いくらまどかちゃんがドジなところがあるといってもあそこまでドジではないわぁッ!!お前にはまどかちゃんの良さがまるでわかってないッ!!そして、お前のようなバケモノには到底理解などできんだろう」

こんな猛獣だか珍獣なんかのバケモノにまどかちゃんの良さがわかってたまるものか。
実に嘆かわしいとはこのことだ。

「…まさか、たったそれだけのことで我の幻術を解くとはな。やはり、貴様はフォーリアとシェルリアの重要な鍵というわけだな」

バケモノは、何やら納得して考え込んでいた。そして、決心がついたかのように俺に再び向き直る。

「しかし、それが理解できたとしたとて、貴様にはどうすることも出来んがな。いくら貴様が鍵であっても、その力を制御できないことも思うように使うこともできないことも既に知っている。ケッケケケ」

バケモノはにやにやとした表情で俺を見ながらクスクスと笑い出す。
確かにな。俺には自由にあの力を引き出すこともできん。そして、この状況を打開するだけの策もない。つまりは、手詰まり万事休すチェックメイトなわけだ。

…ってことはつまり何だ。俺は今、かなりヤヴァイ状況では…。

「さて、土産話も終わったことだ。当初の目的通り貴様にはここで消えてもらうことにしてもらうとしよう」

バケモノはゆっくりと俺の方に向かって歩き出す。
待て待てッ!何でそれで俺が消えなきゃならん理由になるんだ?ってかテメェは誰だよ?
何でフォーリアとシェルリアの他のヤツに俺が狙われるんだ?ワケがわからん。

まず、この状況がおかしい。突然、俺の前に現れたバケモノ…この時点でおかしい。
何だよバケモノって!?こんなもんゲームのエネミーとか映画でしか俺は見たことがないぞ。
そのバケモノが今、俺に向かって歩いてきている。こんなバケモノが近づいてくれば誰でも怖いだろ?ふつーは。

そいつが何て言った?目的通り俺を消す?なぜ?もうまったくワケがわからん。
すると、俺がパ二くっておろおろわたわたしているのを尻目に、バケモノがにやりと微笑みを浮かべながら口を開く。

「ケッケケケ。そうだ、さっきの貴様の推察に補足が必要であったことを忘れておった」

「補足…だと…?」

一体、これ以上何があるっていうんだ。この状況把握もできてないっていうのによ。

「実はな、我が幻術をかけたのは真だが、我が幻術をかけたのは二度目なのだ。ケッケケケ」

「…二度目?どういうことだ」

もう何がなんだかワケがわからん。誰かこの状況を解りやすく説明してくれ。
そして、俺を助けろ。