第1章 6話 『フォーリア国とシェルリア国との紛争』
あの~もしもし?ヒカリさん?そろそろ俺は話についていけません。
っていうかなんじゃそりゃ…。
「……説明しろ」
俺はようやくこれだけが精一杯な言葉を口に出せた。
「フン…まぁいいだろう。確かに説明しなければここからの話にも私たちへの協力の意味もわからんしな」
「…あぁ」
まぁ既にもう俺の脳内コンピューターは、新たな新規ファイル『ヒカリ』データのおかげで情報が溢れかえっている始末だ。っていうかよくこんな馬鹿話に付き合ってるよな俺。…意外に大物なのかもしれん。そして、ヒカリが口を開く。
「貴様に二つの魔力が流れていると言ったな。それは貴様のその身の中に鍵の証、その器である通称、神の種。私は天使の宝具と呼んでるがこれが眠っている。かつての先人たちが、未来への希望となるよう術師が作ったのだといわれている。これはフォーリアとシェルリアの両国の友好の証ともいわれているようだ。その先人たちが残した古い書物にこんなことが書いてあった。フォーリア、それにシェルリア、互いにいがみ合い、力の格差から対立し、敵対したところで何も生まれない。どちらも異なる存在ではない1人の人間なのだから。無益な争いで血を流す必要もない。その貴い命を散らしてはならぬ。それならば、共に歩んでいこう。互いに手を取り合い、共存していく道を切り開こう……とな。その架け橋になればと作られたものがこの神の種だ」
「俺が神の種で、ヒカリの悪の種か」
「そうだ。この力は別名、『天の力』とも呼ばれている。かつては、フォーリアとシェルリアを1つの国とし、そこで新たに国を統括する者、簡単に言えば未来への世界を創造、絶望を打ち砕き希望を切り開く力である。それを有力者から選出し、選ばれた者にこの力を授けていたようだ。そこら辺は未だ真相はわからん。でもまぁ、現在それぞれ国が存在し、敵対しているトコを見るとこれは失敗に終わったんだろうさ。フフフ…。まぁ、それは置いておいて、これは、フォーリアとシェルリアの上級魔術師が互いに魔力を籠め、封じ込めた魔力の塊、いや、命そのものだ。濃縮された術者たちの生命力に魔力、それだけに受け入れるだけの器もそれはもう強大でなければならない。その器がなければ受け入れることはできないだろう。なければ、その瞬間に、その力で身体は耐え切れず溢れ出し、暴発してしまうだろうさ。受け入れるにはそれほど大きな器が必要なのだ。まさに、選ばれた者、鍵だけに許される力、与えられた魔力の秘宝というわけだ」
「まぁ…なんとなく解る気がするけどな。でも、何でそんなもんが俺の中にあるんだよ??」
「それは私も知らん。だが、貴様は現にその力を秘めておる。フォーリアとシェルリアの2つの魔力を持つ宝具を持っている。名誉なことだぞ、これは。何百年に現れるか現れないかの逸材と言っても過言ではないさ」
「そんなこと言われたって、魔法使いの基準も何もわかんねぇしな。その凄さも俺には捉えきれん。別に嬉しくもなんともねぇよ」
「フフフ♪♪そうだろうな。最もさっきも話したように普通の人間がそうような力を持てば害を及ぼす。私と同じように魔力を必要以上に多用すれば死に至ることだってあるからな。それが、ましてや天使の宝具のような強大な魔力の塊だ。悪の種な比ではない。初めに言っておこう。この宝具を私は術者の魂そのものであると言ったな??つまり、制御できなければ別人格に身体を支配される。いずれや貴様の身体を、魂を奪われてしまうかもしれぬ。オーバードライブ、貴様の場合はバーサーカーとでもいうのか??魔力のリミット解除は命を削るとさっき話したが、貴様もその運命を背負っている。だから…」
そう言うと、ヒカリは俺の顔に押し当てる勢いで手のひらを開いた。
「5回だ。制御できぬ貴様の身体では5回のリミット解除が限界だ。それ以上使用すれば確実に死ぬ。私の予測は自慢じゃないが当たる。覚えておけ」
「…わかった。それはわかったんだが」
「何だ??その腑に落ちないって顔は??」
「いや、なんつーか、俺は何でそんな状態にあるのに、それを覚えていないのかなって思ってな」
「……さぁな??」
一瞬考える素振りをしたが、考えるのも面倒になったのかあっさりと答えた。
さぁなって。そんなあっさりな。
「私のように何かしらで身体を弄くられたのか、それ以外なのかもしれぬが推測ばかり並び立てたところで無意味だ。まぁ、記憶というのは曖昧なものだ。全部が全部、今のその記憶も本当の記憶ではないかもしれぬ。見て聞いたこと、夢なども混合しているかもしれん。それだけ、記憶とは曖昧なものだ。気休めにしかならんことは考えぬ方がいい。いずれその真相もわかる時が来るかもしれぬからな」
……確かにそれはある。俺はずっと気になっていた。何故か、過去の記憶の一部から、そこを基点にそれ以前の記憶は全くないことに…。まぁ、記憶なんて曖昧なものだ。嬉しいこと、楽しいことは誰もが出来るのなら忘れずに覚えていたいとのように、反対に、辛いことや悲しいことは誰も出来るのならそんなこと忘れたいし、覚えていたいとは思わない。
でも、人間はそんなに万能には出来ていない。覚えていたい記憶も時間を経れば忘れていってしまう。それが多ければ多いほど尚のことだ。覚えていたとしてもその時受けた印象や行動は完璧ではない。いくら強く印象に残っていたとしても、最後にはある一部に最も強く受けたものしか残らない。
例えば、あれだ。
テストか何かで、決められた範囲の事柄を勉強し、かつ覚えなければいけない。
だが、いくら1日みっちり勉強したとしても一晩経つと忘れてしまう。全部が全部じゃないけどな。でも、人は覚えたことは忘れてしまう。急激に7割から8割忘れ、そして記憶に残ったものは、その後長い時間が経っても中々忘れないようだけどな。まぁ、テレビの受け売りだけど。
反対に、覚えていたくない記憶は中々消えないものだ。悲しいことや辛いことは忘れたつもりでもその時受けたダメージと傷は癒えるものではない。心の傷ってやつだ。…フラッシュバックっていったっけ。過去に経験した強いトラウマや心的外傷を受けた場合に、後になってその記憶が、突然、非常に鮮明に思い出されたり過去に起こった記憶で、その記憶が無意識に思い出され、過去に味わった体験を連想させる場面に直面した時に、『そのとき』と同じ感情が、現在体験しているもののように甦ってくるってやつ。そんな感じで、忘れたことでもある条件を満たすことで再び蘇らせてしまうこともあるのだ。これもテレビの受け売りだ。
だが、俺はこの両方、どちらにも当てはまらない。
だって、その記憶自体がないのだから…。
覚えていたい記憶も忘れてしまいたい記憶も俺の中には存在してはいないし、何かの瞬間にその記憶が蘇るなんてことも全くないのだから…。だから、今までずっと俺はわからなかった。何故、ある基点より以前の記憶がないことに。記憶喪失と疑ったこともあったが、それとは何か違う……ような気がした。
結局は何もわからないままだった。それに、何度やっても思い出すことはなかった。
作品名:第1章 6話 『フォーリア国とシェルリア国との紛争』 作家名:秋月かのん