シリアル
ある日のこと。その雌猫の餌容器の傍にシリアルが落ちていた。
「たぶん、わたしの服にでもくっついていたのね」
その時は、それで受け流した僕だったが、ある夜は 餌容器の中にシリアルがあった。
「ごめんなさい。きっと催促されたから 慌てて間違えてしまったのね」
少しばかり注意を促した僕は まだ気付いてはいなかった。
彼女は、「シリアルのおかげね」と少しずつほっそりとしてきた。
嬉しそうな彼女に 僕はまた洋服をプレゼントしたくなるほど魅力的に見えた。
そして、あのツーピースのスカートの脇のファスナーも楽に上がるようになったと着て見せてくれた。
あの頃の彼女が蘇る。
ぽっちゃりの彼女も大好きだが 僕はまた努力した彼女のことが好きになっていくようだった。
それに引き替え おまえは……。
ある日の休日。
僕は 久し振りに雌猫を猫じゃらしで遊ばせていた。軽快に戯れる少し太った雌猫は たまにあることとはいえ、フローリングの床に毛玉を吐いた。
「あぁーあ。まったく。しっかり遊ばないと痩せないぞ」
僕は、床に零れた吐瀉物を始末しながら、そこにいつもの餌と違うものを見つけた。
「はて? もしかしてシリアルを拾い食いしたな。駄目だぞ!」
だが雌猫は、そのまま力なく床にうずくまった。
「どうした? もう怒ってないぞ。おい…」
僕は、彼女に告げ、かかりつけの動物病院へと出かけた。
かかりつけとはいっても 健康診断と予防接種くらいで 病気などでお世話になったことはなかった。
その医者が 僕に言った。
「可愛くても 人間の食べるようなものは与えないでくださいね。内臓の機能が落ちていますよ」
僕は、聞き直したいほど 耳を疑った。
いつも決まった量の餌を僕は用意して出かけていた。時間になって 与えるのは彼女だけれど、忘れたことなどないはずだ。
僕は、雌猫の薬を受け取り、支払いを済ませると真っ直ぐに家に戻った。