シリアル
「はぁい。いいわよ」
彼女の声は、優しいのだけれど どこか苦しそうだった。
「どうしたの? ごちそうさま。美味しかったよ」
「そう。あ、食器は」
「ごめん。そのままテーブルの上なんだ」
「あぁ、いいの、いいのって。うぅーん、はぁ…」
彼女は、結婚の時に買ったドレッサーの前で 懐かしい…(んーあれは三回目のデートで着てきた)ツーピースのスカートの脇のファスナーを上げているところだった。
目の前の事態を 容易く聞いてはいけないのかもしれないけれど、彼女の努力を無視するのも失礼なような気がした。
「サイズが合わない?」
ちょっとストレートだっただろうか。でも もう言ってしまった。
「ウエストサイズは変わっていないからと 油断したわ。お腹がぽっこり、タイトが入らないのよ」
彼女の無駄のない解答は、僕の心配を半減させた。
「そっか。その服 似合っていたし、僕は好きだったよ」
「そんな過去形ばかり言わないで」
せっかく 挽回したはずなのに また余計な発言をしてしまったと後悔した。
彼女が僕との結婚を承諾してくれて 選んだ結婚式の純白のウエディングドレスはウエストをピンで縮めるほど彼女の腰は括れていた。
それから一年後、彼女の可愛いおなかは、ぽっこりと膨らみ 息子を育んだ。そのあとは また戻ったかに思ったけれど、その二年後、またぽっこりと膨らみ 娘を育んだ。
食事を取り、さらに残りものをさらえ、子どものおやつに付き合ったり、ママ同士のお茶会にも参加したりした結果と言ってはいけないが 彼女は ややぽっちゃりとした体形になった。
それでも、数年前には、子育てがひと段落したからと 食事と運動で体重はかなり落としたようだった。一時は、がりがりではないまでも ボクの見たことがないほどの痩せ方に心配をしたこともあった。そう 抱きしめても柔らかくない。
でも最近は、ほどよく肉付きが戻り、僕は彼女から目が離せないほど 惹かれている。
あ、これは余分だった……。