ＳＡⅤＩＯＲ・ＡＧＥＮＴⅡ
それから時間が流れて放課後。
私は松井さん達と一緒に駅前の占い所へやっていた。
この前塩田さんとやって来たデパートから少し離れた場所にあるビルの２階の窓には大きく『夢占い』と書かれ、黒いカーテンで内側が閉め切られていた。
そしてビルの前には評判を聞きつけた何十人もの人達が長蛇の列を成していた。
列に並ぶ事約１時間、ようやく私達の番となった。
ドアを開けるとそこも黒い幕で覆われ、マン・ツー・マンでの会話となる。
松井さんは付添だから今回相談事は無い、竹里さんと梅沢さんが順番に入り、次は私の番となった。
私は深く息を吐きながら黒幕を潜った。
内部は本格的な作りとなっていた。
天井には薄い明りの小さなシャンデリア、床には六亡星とそれを取り囲むように黄道十二星座の紋章がサークル状に描かれた絨毯、私の両サイドの壁際には棚が置かれ、恐らくレプリカだろうけど水晶ドクロや金の飛行機などのオーパーツ、良い匂いのする香炉が置いてあった。
そして目の前には黒いクロスのかかった丸いテーブルがあり、その上には紫の布がかぶった土台の上に水晶玉が置かれていた。
その奥には黒い背もたれの椅子に座った黒いフードとフェイス・ベールで口元を隠した人が座っていた。
体格からして女だろう、占い師は手を差し伸べると透き通るような綺麗な声で言って来た。
「どうぞ、おかけになってください」
「はい」
私は言われた通りに彼女が座っている椅子と同じ椅子に座った。
「ここは真理の部屋、貴女の心の悩みを解決します…… 安心して心の内をお話し下さい」
「あ、あの、私は……」
私は口ごもる。
どうしよう、何も話す事が無い…… 一応バカ兄貴のセクハラがあるけど、そんなの話して何になる？ 警察でも何でも呼びゃ良いだけの話だ。
沈黙を続ける事数秒…… 埒が明かなくなった彼女はため息を零すと水晶玉に向かって両手をかざして静かに目を閉じた。
「…………」
何を言ってるのか分からないけど、フェイス・ベール越しに呪文の様な物を唱えた。
そして目を開いて私を見た。
「分かりました。貴女は今男の人…… 身内の事で悩んでいますね」
「えっ？」
私はビク付いた。
ズバリ正解だったからだ。
「その身内の方は恐らく自分勝手でデリカシーの無いロクで無し……」
「え、ええ…… まぁ」
私は正直に頷いた。
確かに弁解の余地が無いからだ。
「しかしそんな彼でも貴女は慕っている、ずっと一緒にいて欲しいと思ってる」
「っ！」
「確かに現実は無理かもしれません、ですがこれさえあれば、夢の中でも会う事が出来ます」
彼女は私の前にネイロス・カードを差し出した。
「これを寝る前に額に当ててから枕の下に入れてください…… そしてこの事は誰にも話してはいけません、願いはかなわなくなります。よろしいですね？」
「は、はぁ……」
私は頷いた。
って言うか松井さんは夢を話してた。
私はネイロス・カードを受け取って表に出た。
すると松井さん達が出迎えてくれた。
「舞ちゃん、どうだった？」
「えっ？ いや、どうって言われても……」
私はネイロス・カードを見せた。
「あ、舞ちゃんも貰えたのね」
「じゃあ次はメグちゃんね」
「え、ええ……」
塩田さんは不安げに部屋の中に入って行った。
ビルの中で待つと他の人達の迷惑になるので表で待っていた。
待つ事５分も経無い内に塩田さんが階段から降りて来た。
右手にはネイロス・カードが持たれていた。
「良かったね、これでメグちゃんの悩みも解決よ、私みたいに皆幸せよ〜」
１０００円っぽっちで何言ってんだこの人…… 私はハッキリ言って呆れていた。
って言うか学校にいる時に松井さんは自分の夢の事を話していた。
恐らく占い師に『自分の夢を話してはいけない』って言われたはずだけど、お金拾ったからそれで満足したんだろう、本当に幸せな人だ。
作品名：ＳＡⅤＩＯＲ・ＡＧＥＮＴⅡ 作家名：kazuyuki