小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

SAⅤIOR・AGENTⅡ

INDEX|77ページ/172ページ|

次のページ前のページ
 

エピソード8,待たされる者



 年が明けて新学期、1月が終わろうとしている時だった。
 もうすぐ桜星高校は受験を迎えようとしていた。
 私も去年は勉強に明け暮れていた。
 ただ私の場合は兄貴が死んだと思っていたから、何かしてないと落ちつかなかったと言うべきだろうな……
 でも高校生になった私にはもう過去の事、私の成績なら進級も問題なかった。
 そんなある日の事。
 
 人は誰しも知らない一面を持っている。 
 クラスで1番真面目で優等生だと思ってた人が実は家じゃオタクだったり、硬派で女の子等寄せ付けないと思ってた人が実は女の子大好きだったりと色々ある。
 今回はそんな話だ。

 チャイムが鳴って3限目が終わった。
「う〜、トイレトイレ〜」
 なんて下品な……
 兄貴は唸りながら席を立った。
 私は教科書とノートを仕舞ってしばらくの間スマホを取り出してニュースを閲覧した。
 それから1分もかからないだろう、1組に塩田さんがやって来た。
「失礼します」
「塩田さん?」
「白金さん、すみません…… 英語の教科書を貸してもらえませんか? また…… 忘れてしまって……」
「良いですよ、でも最近よく忘れ物しますね」
「……すみません」
 塩田さんは頭を下げた。
「ああ、いえ、良いんですよ…… 私だって結構忘れ物とかしますし、何も無い所でつまずいたりとかしますから…… 別に気にする必要は無いですよ」
 ちっともフォローになって無い、ってか何言ってんだろ、私……
 でも塩田さんの忘れ物が多いのが事実だった。
 忘れ物だけじゃ無い、最近塩田さんはボーっとする事が多く、つまづいて転んで資料を床にぶちまけたり、皆で昼休みに昼食を食べてる時だって何を話しても上の空で箸が止まる事があった。
 まぁ、塩田さんも人間なんだしそう言うのがあってもおかしくは無いけど……
「何々? 何話してるの?」
 するとそこへ数人の女子がやって来た。
 私の知り合いはセイヴァー・エージェントや異星人だけじゃ無い、塩田さん以外の地球人の友人もちゃんといる。
 彼女達はクラスメートの松井さんと竹里さんと梅沢さんだった。
「んもう、塩田さん…… そんな暗い顔じゃ幸せが逃げちゃうわよぉ、そんな時はこれこれ!」
 すると松井さんがある物を取り出した。
 それは1枚のカードだった。
 右を向いた白い体毛で黒い瞳の羊の顔が描かれたピンクの柄でテレカくらいの大きさのカードだった。
「何それ?」
 私は尋ねる。
 すると松井さんはもったいぶる様な口調で言って来た。
「これはね、今流行りの『ネイロス・カード』って言って、これを枕元に置いて寝ると見た夢が現実になるんだって」
「そうなの?」
 私は眉間に皺を寄せた。
 彼女はミーハーでこう言った話しに敏感だった。
 何でも商店街にできた占い所でこれを無料配布しているらしく、学校でも持っている人達を何人も見かけている。
 勿論私は信じ無い、自慢じゃないけどテレビの星占いどころか初詣のおみくじすら信じていなかった。
 それが普通なのか、単に私が女らしく無いのか分からない…… でもそんなのにすがるなんて正直時間と金の無駄遣いだ。例えそれが無料だったとしてもだ。
「ほらぁ、私この前小テストで赤点とっちゃったじゃない、そんでお小遣い減らされちゃったんだけど…… これのお金持ちになる夢見たのよ〜、そんで道歩いてたら千円拾っちゃった〜」
「び、微妙な夢ね……」
 私は苦笑した。
 松井さんはネイロス・カードを持ったまま両手で顔を抑えて嬉しそうに上半身を左右に揺すった。
 って言うか落し物は警察に届けよう…… 
 そんな事を考えていると竹里さんと梅沢さんが言って来た。
「でもメグちゃん、悩んでるなら行ってみたら?」
「大分胡散臭いけど、初回は無料何だし、カードもらって終わりで良いんじゃない?」
「ちょっと、胡散臭いって何よ! ホントにこれのおかげで良い事続いてんだから…… でも一緒に行くのは賛成よ! 恵ちゃんも行ってみましょうよ、勿論白金さんも」
「えっ? いや、私は……」
 私は口ごもると塩田さんの顔を見た。
 塩田さんは何やら思いつめた様子で顔を顰めながら俯いていた。
 松井さん程じゃないけど、塩田さんは何か悩み事でもあるんだろうと思った。
「塩田さん、あの……」
 私は聞いてみようとした。
 だがタイミング悪く始業チャイムが鳴ってしまった。
「あ、ごめんなさい、私行きますね」
「あっ……」
 私は手を伸ばそうとするが授業も始まる事だし呼びとめるのを止めた。
「は〜〜、すっきりすっきり」
 塩田さんと入れ替るように兄貴が至福の笑みを浮かべながら戻って来た。
 その周りには赤や青などの花が咲き乱れているように見えた。
 この男は悩みの『な』の文字も見当たらなかった。いや、それ以前にあるなんてマイコプラズマの大きさほども無いだろう。
 私はもう少し塩田さんと話がしたかったってのに…… ってか休み時間丸々使うなんてどんだけ長いトイレだ?