SAⅤIOR・AGENTⅡ
しばらく経って地下駐車場にパトカーが到着し、佐伯さんは警察に連行された。
あとで警察に潜伏しているセイヴァー・エージェントが記憶を消してくれる手はずになってる。
データ化されたモデルの子達も後で三葉さんが開放してくれるだろう。
全てを駐車場で見届けた兄貴は隣にいる私に言って来た。
「さて、ビル中の記憶を消すか…… 舞、ブレスを着けろ」
「………」
私はブレスを見て右手で左腕を強く握りしめた。
正直着ける気にはなれなかった。
こんな最悪な記憶なんて覚えて無い方が良かった。
すると私の気持ちを察したのか、兄貴はため息を零した。
「だからお前の責じゃねぇって言ってるだろ、1度や2度の失敗なんて誰だってあんだから…… 一々気にしてたら体耐たねぇぞ」
『そうよ』
するとギルの声から里中先生の声が聞こえた。
「千鶴ちゃん?」
『ここよ』
振り向くと駐車場の入り口に里中先生が現れた。
里中先生は私達に近付いて来た。
「妹さん、今回の事は私の読みの甘さに責任があるわ…… でも、以前『潜血の女帝』の事は話したわよね?」
「えっ? それって千鶴ちゃんの……」
兄貴が言おうとした瞬間、里中先生は兄貴の口元を抑えた。
私は初めてセイヴァー・ベースに入った時の事を思い出した。
それは昔、1人の戦闘派のセイヴァー・エージェントの話だった。
彼女はあまりの強さから『潜血の女帝』と呼ばれ、任務遂行が全てと言う心情を持っていた。
しかしその結果、自分を庇って上官が殉職し、その後悔の念から派閥を変えてしまったらしい。
「確かに一瞬の判断やミスで全てを失う事はある、それは二度と還って来ない…… でもそのミスを次に繋げる事は出来るわ、重要なのは同じ過ちを二度と繰り返さない事なんじゃないかしら?」
里中先生は私から目を反らした。
するとそこには遊美さんがいて、私に頭を下げた。
彼女も脅されていて凄く苦しんでいた。
事件と異星人に関する記憶は消える事になるけど、それでも彼女が脅されたとは言え事件の事を黙っていたと言う事実は消えはしない。
「それでも記憶を消されたいなら、私は止めないわ」
「ちょ、待てよ、千鶴ちゃん! そんな勝手な事……」
「決めるのは妹さんよ、それに逃げる事や止める事も勇気の1つよ」
兄貴を止めると里中先生は私を見た。
私はセイヴァー・ブレスを見た。
これを返せば異星人との関わりは無くなる、もう恐い事に巻き込まれずに済むし、責任からも逃げられる。
でも異星人関係の記憶が無くなるって事は兄貴達の記憶も無くなる事になる。
私は皆や塩田さんほど強くは無い、でも遊美さんに言った以上、私だって逃げる訳には行かなかった。
私はセイヴァー・ブレスを左手に装着すると兄貴達に向かって出来る限りの笑顔を作った。
それを見た兄貴はマジでホッとしたようで肩を落とし、里中先生も微笑した。
「それじゃ、頼むわね」
「分かった。ギル!」
『了解』
兄貴は右手につかんだギルに命令するとギルから眩しい光が発せられた。
作品名:SAⅤIOR・AGENTⅡ 作家名:kazuyuki