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SAⅤIOR・AGENTⅡ

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 その頃。
 いよいよ撮影が始まった。
 反射板を持ったスタッフ達に囲まれ、照明に照らされながら佐伯さんはシャッターを切った。
「は〜い、良いよ良いよ〜、笑って〜」
 漫画とかで良く見かけるカメラマンの言う事を実際この耳で聞くとは思わなかった。
 モデルの子達はポーズをとり、同姓の私でも『可愛い』と思ってしまうほどの笑顔になった。さすがプロだ。
 塩田さんも練習してたんだろう、3人程じゃないけどとても笑顔が眩しかった。
 
 だけど問題は私にあった。
「に、にぃぃ〜〜〜」
 自分でも分かる。
 私の顔が凄く強張り、おまけにガチガチだった。
 他の人達も固まりながら私を見ていた。
 佐伯さんは苦笑しながら言って来た。
「う〜〜〜ん、白金さん、少し落ちつこう、ね?」
「は、はひっ!」
 私の声が裏返った。
 スタッフ達はクスクスと笑い出した。
 これ以上撮影を続けるのは無理だと判断したのか、佐伯さんはカメラのファインダーから目を反らした。
「仕方ない、少し休憩しようか」
「は〜い」
 佐伯さんはため息を零して右手を上げるとスタッフ達は機材を床に置いた。

 私達は丸いテーブルを囲むように座席に腰を降ろした。
 テーブルの上にはオレンジジュースが注がれあ紙コップが人数分置かれていて、緊張が解けて両肩を深々と降ろした私はため息を零した。
「……すみません」
 私は謝罪した。
 私には苦手な物が結構ある。
 その中でぶっちぎりなのがカメラだった。
 カメラのフレームを見るとどうも観察されてるモルモットみたいで嫌な気分になった。
 おかげで集合写真や学生証の写真を取る時など何度苦労した事か……
 すると皆が言って来た。
「仕方ないよ、初めて何だから」
「そうだよ、気楽にやってれば良いんだから」
「まぁ家庭の事情はともかく、モデルのクセに体調崩す奴が1番悪いんだから」
「……はぁ」
 私は頷いた。
 本当に3人には行方不明事件とは耳に入ってないみたいだった。
 そりゃそうだ。
 自分の知り合いが誘拐されたなんて言ったら不安になるのは当たり前だ。
 よくテレビとかで良く見るシチュエーションだけど、実際こうして見ると当事者達の事を考えなきゃいけないのが良く分かる。
(気を付けなきゃな…… ん?)
 するとその時、私の目の前の遊美さんが何やら俯いたまま顔を青くしているのが目に入った。
 気分でも悪いのかと思った時、蛍さんが私達に聞いて来た。
「ねぇねぇ、2人ってさ、好きな人いるの?」
「えっ? えええぇえっ?」
 私は思わず叫んだ。
 隣では塩田さんも驚いていた。
 スタッフの人達も何事かと私の方を注目する。
 すると蛍さんは、まるで自分が何か悪い事を言ったかのような感じで顔を曇らせた。
「ちょ、ちょっと、そんなに驚く事?」
「あ、ご、ごめんなさい、突然の事だったので…… でも残念ながらそんな人、私にはいませんよ、大体まだ学生ですし」
「そんなの関係無いじゃない、白金さん凄く可愛いんだし、結構告白されてんじゃないの? きっと10人くらいいてもおかしくないわね」
「だから、そんな人いませんって!」
 私は全力で否定する。
 本当に告白された事なんて無いからだ。
 昔から私は地味目の生徒だったから声をかけて来る人もあまりいなかった。
 と言うか10人だなんて多すぎだ。ギャルゲー(どちらかと言うと乙女ゲー?)じゃあるまいし……
 この場に兄貴がいなかった事をラッキーと思うべきだろうな、もしいたら暴れ出すなんてレベルじゃ無い、辺り一面廃墟になりかねないからだ。
「じゃあ恵ちゃんは?」
「えっ? ああ、わ、私は……」
 塩田さんは肩をすぼめて微笑すると目を泳がせた。
 すると蛍さんはテーブルを叩くと顔をグイッと近付けて来た。
「やっぱいるんだ! 明らかに恋してる目だし!」
「ええっ? い、いや、そう言う意味じゃ……」
 塩田さんは苦笑すると両手を振った。
 でもこの人は嘘の付けない人だ。私でも分かる。
 しかしその相手がまさか自分を殺そうとした異星人と言うのも不思議な縁だった。
 彼は今ゼルベリオスで服役中だけど、取引に応じて真面目にしていれば釈放される事が決まったらしい、そうなれば地球で暮らしても良いとの事だ。
 早くそれが叶えば良いと思った。

 すると園子さんが助け船を出して来た。
「止めなって、2人供困ってるでしょう」
「何よ、宇宙人しか興味ない人には分からないって」
「え、まさかっ!」
 私達は目を見開いた。
 すると園子さんは苦笑しながら両手を振った。
「ああ、違う違う…… こいつ単にUMAファンってだけ、ホントに宇宙人がいる訳無いじゃない」
「何言ってんのよ、地球人だって宇宙人何だから…… いないって証拠がどこにあるのよ?」
 この人は心臓に悪い。
 腕を組みながら園子さんは熱弁した。
 私と塩田さんは互いの顔を見合せながら苦笑した。
 さらに園子さんは自分の胸に手を当てた。
「別に宇宙人じゃ無くても良いわよ、ネッシーだろうが雪男だろうが妖怪だろうが幽霊だろうが、私は構わないわよ」
 危ない発言だった。
 でも異星人を宇宙人って言ってる事から存在を確認してる訳じゃ無さそうだ。
 するとその時、私は目の前の遊美さんの様子がおかしいのに気が付いた。
「遊美さん?」
「えっ?」
「どうかしました? 気分でも悪いんですか?」
「あ、いえ…… 何でも無いです」
 何でも無いなんて顔してない、明らかに尋常じゃ無かった。
 彼女は顔を青くして震えている、しかも震え方にしたって尋常じゃ無い…… まるで怯えてるみたいだった。
 するとその時だった。
「白金さん、ちょっと良いかな?」
 佐伯さんがやって来た。
 私が佐伯さんを見ると遊美さんは目を反らした。

 私は佐伯さんと供に撮影室へ出た。
 何でも別の部屋で撮影したいと言う。
 佐伯さんの後ろで私は言った。
「あ、あの、佐伯さん…… やっぱり私」
 土壇場で言うのも何だけど2人きりで撮影と言うのは不安だった。
「大丈夫だよ、マジック・ミラーみたいなモンだし、姿が見えない方が君も安心するだろ?」
「そ、そうですけど……」
 私はとりあえず頷いた。
 そしてやって来たのは1つの部屋だった。
 佐伯さんは鍵を開けて扉を開けると私を見た。
「さぁ、どうぞ」
 佐伯さんは私を招いた。
 私は部屋の中に入る。
 だが部屋の様子に私は眉間に皺を寄せた。
 そこは話に聞いていた場所と違っていた。古くなった機材や書類などが入ったダンボールが無造作に置かれる倉庫だった。
「ここって……」
 私は振り向こうとした瞬間、突然背後から布で口元を押さえられた。
 しかも何か薬品でも染みこませてあったのか、意識が遠くなっていった。