SAⅤIOR・AGENTⅡ
バイスは間合いを詰めると右足を振り上げ、爪先でザックの右手を蹴り飛ばした。
『ぐあっ?』
レーザー銃はザックの手から離れて宙に舞った。しかしそれが地に落ちるよりも早くバイスは動いた。
今度は右手を強く握り、わき腹まで持ってくると渾身の力を込めた正拳突きを放った。
『ぐぎゃああっ!』
バイスの会心の一撃が顔面に炸裂。
牙が何本か折れたザックは地面に転がった。
だがバイスの攻撃は終わらなかった。
奴に近付いて胸倉をつかんで持ち上げ、膝に向かってニー・キックを数回、最後にヘッド・バットを食らわせると即刀蹴りを放った。
『がああぁ……』
ザックはフラつきながら片膝を付いた。
バイスが身構えたその時だった。
『ま、待ってくれ! 俺はもう戦えない、負けを認めるから許してくれ…… 同じヴォルフ星人のよしみだろ? なっ? その物騒なモンを仕舞ってくれ!』
ザックは慌てて土下座をすると愛想笑いを浮かべた。
「あの野郎!」
まだ不意打ちをかます気だった。
しかし今回は相手が悪かった。
よりにもよってあのバイスだ。
「それがどうした?」
『はっ?』
ザックは呆気にとられた顔をする。
バイスは右足を引くと体を捻って回転蹴りを食らわせた。
『ぐがあっ!』
ザックは再び転がった。
ザックは顔を強張らせながら言って来た。
『て、テメェ…… 何しやがんだ? 同じヴォルフ星人だろ! テメェには情ってモンがねぇのか?』
「そんな物知るかっ! ヴォルフ星人だろうが何だろうが、犯罪者にかける情等無いっ!」
『チッ、融通が利かねぇ野郎だって事すっかり忘れてたぜ……』
ザックは吐き捨てた。
だがマジでこう言った時に頭の固いバイスが羨ましいと思った。
バイスが一歩踏み出すとザックはそれに合わせるかのように後退する。
命乞いも効かず、状況が不利とみなしたザックはバイスに背を向けて走り出した。
『くっ、くそっ!』
だがそれを見逃すバイスじゃ無かった。
「逃がさんっ!」
するとバイスはゴーグルに新装備を映し出すと右手をかざした。
現れたのは切っ先が丸い緑の結晶体で造られた銀の柄の短剣状のデバイスだった。
さらにバイスは地面に突き刺さっている自分のセイヴァー・アームズを引き抜き、両刃の間にデバイスの柄を合体させた。
「γ・モードっ!」
聞いた事の無いモードだった。
多分サイモンが付け足した能力だろうが、バイスが叫ぶとデバイスが緑色に発光、途端セイヴァー・アームズにも緑の刃が出来上がった。
「ハっ!」
バイスはセイヴァー・アームズを振るった。
するとザックを越えるスピードの緑色の月牙が放たれた。
ザックがそれを受けると突然金縛りにでもあったかのように固まった。
『ガアアッ! か、体が動かねぇ?』
ザックが絶叫する。
どうやら相手の神経をマヒさせる効果があるみたいだった。
「α・モードっ!」
今度は金色のエネルギーの刃を作り一気にダッシュ。
そして両足を揃えてジャンプすると両手でセイヴァ―・アームズを上段に構えた。
「ヴォルフ星人、ザック! 逮捕だっ!」
渾身の一撃がザックの唐竹から下を切り裂いた。
『ギャアアァアア―――ッ!』
切られた箇所から粒子化が始まり、ゼルベリオスへの転送が始まった。
しかしザックはバイスを睨みつけると口の端を上に上げた。。
『ぐぅ、こ、こんな事をしても無駄だ。あの女は永久にお前を憎むだろうぜ…… 結局お前のした事は無駄な事だったなぁ? ギャハハハっ!』
負け惜しみだろうな、高笑いを上げながらザックは転送された。
しかし言葉ってのは時にどんな武器や兵器より強い、これから一生バイスの心に永久に突き刺る事になるだろう。
それを分かっていたバイスは静かに目を閉じた。
作品名:SAⅤIOR・AGENTⅡ 作家名:kazuyuki