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SAⅤIOR・AGENTⅡ

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 それから2日後。
 隣町で殺人事件が起こった。
 ただの殺人事件なら警察の仕事だろうが、被害者は皆地球滞在の異星人と言う事でオレ達にお呼びがかかった。
 千鶴ちゃんのパソコンの画面に映し出されたのは3人の男性だった。
 その事件と言うのが……
「殺害されたのは隣町に住む大野俊之さん、滝口昭二さん、須藤玉夫さんの3人よ」
 パソコンのモニターに映し出されたのは20代前半のコンビニ店員と30代の無職の男性、そして20代後半の警察官巡査で、3人供心臓をくり抜かれて死んでいたと言う。
 猟奇的とは言え殺人事件なら警察の仕事だろうと思う、だけど殺害されたのはいずれも異星人、しかも……
「被害者はみんなフィーラ星人よ」
「何ですって?」
 バイスは椅子を蹴って立ち上がる。
 あの辺りに住んでいるフィーラ星人は結構いる、偶然と言えばそれまでだが、オレは先日見た怪しい男が気になった。
 そして気になる理由がもう1つ、心臓をくり抜かれて殺されていたと言う所だ。
「不味い!」
 バイスは顔を険しくするとオレ達に背を向けた。
「バイス!」
 千鶴ちゃんはバイスを呼びとめる。
 だがバイスは止まる気配は無い。
「どうしたの? 何かあったの?」
 理由を知らない千鶴ちゃんにはバイスの取った行動の意味は分からない。
 オレ達は簡単に説明する。
「どうしてそう言う事を早く言わないの?」
「だ、だってこんな事になるなんて〜……」
「……仕方ないわ、今すぐバイスを追って、それが本当なら彼女が危ないわ!」
「「「了解!」」」
 オレ達はバイスの後を追った。

「はぁ、はぁ……」
 花梨は薄暗い路地を走っていた。
 大学は午前で抗議が終わり、これから幼稚園に行こうとしたのだが、突如自分の前に現れた『ある者』の姿を見て逃げ出した。
 自分を追いかけて来る者の足音が耳に響く度に脳裏にある光景が蘇った。
 燃え盛る家、夥しい悲鳴、舞い上がる血飛沫、絶望に顔を歪めながら惨殺された仲間達……
 まだ幼かった自分は冷たくなって行く血まみれの母親の手を握りしめながら叫んだ。
 しかし母親の手は自分の手から滑り落ちると二度と動かなくなった。
 忌まわしい過去を振り払うように首を左右に強く降り、我を現実に戻ると全速力で走った。
 
 体力に限界が来ると壁に手を付いて両肩を上下させた。
 耳を澄ますと足音は聞こえない、諦めたのかとホッと胸を撫で下ろした刹那、頭上からそいつが目の前に降って来た。
「あっ、ああぁ……」
 声にならない悲鳴に体中が震えあがり、両足の力が抜けてその場に崩れ落ちた。
 黒い帽子と逆光で顔は見えないが口元が三日月形に歪み、ポケットに入れていた右手を引き抜いた。
 しかしその右手は地球人のとは違った。
 黒い体毛に覆われ、5本の指の先から鋭い爪が鎌首を立てて伸びた。
 大きく振り上げられた右手が自分に振り降ろされようとしたその時だった。
「待てぇ!」
 花梨の背後から飛び出した影が男に向かって右足を突き立てた。
「ぐおおっ?」
 男は胸に飛び蹴りを食らい、背後にあったポリバケツをひっくり返しながらアスファルトに転がった。
 一方バイスは花梨の直ぐ後ろに着地すると彼女の両肩に手を乗せて立ち上がらせた。
「大丈夫ですか?」
「お、大神さん……」
「こっちです!」
 バイスは怯える花梨を抱きかかえると足に力を入れて飛びあがり、壁を駆けあがりながらその場を離れた。
 
 本気で走れば花梨の体は耐えられない。
 それが分かっていたバイスは花梨に負荷がかからに程度に速度を抑えてビルの間を駆け抜けて行った。
 普通の敵なら逃げ切れるだろう、だが今回は逃げ切れる物では無かった。
 黒い影が自分達の後ろから迫って来ると自分達の頭上を飛び越え、右手で帽子を抑えながら着地した。
 男は鋭い目でバイスを睨みつけながら言って来た。
「その動き、地球人じゃなねぇな……」
「何故彼女に危害を加えようとする?」
 バイスは言葉を返した。
 すると男は右手の関節を鳴らしながら応えた。
「その女はフィーラ星人の生き残り…… となると目的は知ってるだろ?」
「やはりな…… ファング!」
『イエッサーッ!』
 左腕のファングが輝くと自分の手の中にセイヴァー・アームズが転送された。
 すると男は眉間に皺を寄せると鼻孔を広げて大きく息を吸った。
「この臭い…… お前、バイスか?」
「何っ?」
 バイスは顔を顰める。
 すると男は本性を現した。
 地球人の変装を止め、元に戻った姿を見た瞬間、バイスの顔色が変わった。
 なんと男は自分と同じヴォルフ星人だった。
 ただバイスと違い全身が黒いが頭の耳と耳の間から猫背の背筋にかけてが白い体毛で覆われた完全体のヴォルフ星人だった。
『久しぶりだな』
「ザック…… 生きていたのかっ?」
 バイスは声を震わせた。
 するとザックは人差し指を向けた。
『どうした。お前も元の姿になったらどうだ?』
「くっ……」
 バイスは舌打ちをする。
 後ろにいる花梨を見ると花梨はバイスを怯えるように見ていた。
 バイスは一歩前に出るとセイヴァー・アームズを構えた。
「貴様など、この姿で十分だ!」
 バイスは走り出すとザックに向かってセイヴァー・アームズを振り下ろした。
 しかし相手は完全体のヴォルフ星人、部分開放すらしていない今のバイスでは太刀打ちできる訳が無かった。
 ザックは余裕の笑みを浮かべ、まるでステップを踏むようにバイスの後ろに回り込み、鋭い爪で背中を切り裂いた。
「があっ!」
 バイスが顔を歪めると制服が破れられると鮮血が噴き出した。
 何とか足を踏ん張り倒れるのを防ぐと歯を食いしばって上半身を捻り、セイヴァ―・アームズを振るった。
 しかしこれもあっさり交わされてしまった。
 ザックは逆関節の両膝を折り曲げるとバイスの刃を回避、その後素早く立ち上がってバイスに即刀蹴りを放った。
「がああっ!」
 数メートル吹き飛ばされたバイスはアスファルトに倒れながらボールのように転がった。
「大神さんっ!」
 花梨がバイスに向かって叫んだ。
 するとザックは目を細めながら花梨を見た。
『ほう、そいつを心配するのか? お前の惑星を滅ぼした奴をか?』
「えっ?」
 花梨は顔を強張らせた。
 意識だけははっきりしているバイスは何とか立ち上がろうとするが激痛で両手に力が入らなかった。
 そのバイスを後目にザックは言った。
「こいつも俺と同じヴォルフ星人だ」
 その言葉を聞いた瞬間、花梨は瞳を大きく見開きながらバイスを見た。
 バイスは花梨から目を背けた。
『まぁ、俺はこいつらと違うが、少なくともお前にとっちゃ俺もこいつも同類だ』
「だ、黙れ……」
 バイスはセイヴァ―・ギアを支えに立ち上がった。
 鋭い目つきでザックに向かって叫んだ。
「貴様、貴様だけは……」
『フン、死にぞこないのクセに良く咆える…… まぁ、同じヴォルフ星人の仲だ。すぐ楽にしてやるよ』
 ザックの目が怪しく光った。
 振り上げられた爪が振り上げられた瞬間だった。
「させるかぁ―――――っ!」
 その時だった。
 空からファーランが飛行して来た。