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SAⅤIOR・AGENTⅡ

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 それからしばらくして私達も後を追う事になった。
 あらかじめ三葉さん達が作った消臭剤をかけてタクシーに乗った。
 後ろの前の席に私、後ろの席に不破さん、三葉さん、兄貴の順番で座った。
 タクシーに乗りながらも三葉さんはスマホで大神の行方を追った。
「バイスの奴、意外とゆっくり動いてるな……」
「買い物してるなら、そんなに早く動けないからじゃ無い?」
 不破さんが言って来る。
 大神さんは新幹線より早く走れる。
 ただ荷物を抱えたまま走れば荷物は消し墨になりかねない、何を買ったのか知らないけど……

 私達がやって来たのは隣町だった。
 大神さんの発信源の数メートル先で降り、そこからは徒歩となった。
 やって来たのは幼稚園だった。
「ここって……」
「ああ、そうだな」
 兄貴は頷いた。
 私達の目の前に建っている『県立鈴村幼稚園』には以前私達が訪れた事があった。
 先月の頭だった。
 家の学校の校長とここの園長が知り合いだったらしく、演劇部と組んで演劇を行う事になった。
 演目はピーターパンで、演劇部は運動神経が高いと言う事で兄貴達を助っ人に入れた。
 兄貴達は参加してくれた。だが……
「ったく、今思い出しても忌々しいぜ、何でオレが海賊なんだよ」
「1番ハマってたの自分のクセに……」
 私は思い出した。
 あの劇で不破さんがピーターパン、三葉さんがフック船長を、そして兄貴と大神さんが海賊の手下A・Bを行った。
 4人とも戦闘派のセイヴァー・エージェントなのでハリウッド顔負けの戦闘シーンに幼稚園児達に大絶賛だった。
「タクミがピーターパンやっても気持ち悪いだけだよ」
「精神年齢は同じなんだけどな」
「テメェ等……」
 兄貴は顔を顰めた。
 事実なんだから仕方ないと言えば厄介になるから止めて置く。
 私達は門の方へ移動する。
 庭では子供達が玩具やお菓子を片手に走り回っていた。
 しかしそれを配っているのが……
「バイスっ?」
 不破さんは顔を引きつらせた。
 なんと大神さんは大きなダンボールの中に手を突っ込んで取り出した玩具を子供達に与えていた。
 私を含めた4人は硬直した。
 三葉さんも完全に予想外を通り越して未知な物を見たと言った感じの顔をしていた。
「ん?」
 大神さんがこちらに気付いた。
 すると大神さんも鋭い目を大きくしたかと思うとそのまま硬直して動かなくなった。
 そんな時だった。
「大神さん、ちょっと手を貸して…… あら?」
 施設の中から1人の若い女性が現れた。
 年は私や兄貴より少し上の大学生くらいだろう、茶色い髪の小さなポニーテール、青いシャツとジーンズの上から白いエプロンを羽織った綺麗な人だった。
 彼女はこの幼稚園でボランティアをしている大学生の五十嵐・花梨さんだった。
 
 私達も園内に入れて貰った。
 あの演劇会の後、大神さんは偶然にもこの幼稚園の前を通りかかり、彼女が園児達を連れて散歩に出かける所に遭遇した。
 演劇会の直後と言う事もあり大神さんの事を覚えていて、一緒に散歩がてら話す内に解け込み合い、それ以来自主的に幼稚園を訪れるようになったと言う。
「へぇ、偶然ねぇ〜」
 不破さんが目を細めて薄ら笑いを浮かべながら口元を右手で抑えた。
 そして左での肘で腕を組みながら仁王立ちしている大神さんのわき腹を小突いた。
「ホントは別の事が目的なんじゃないのぉ〜?」
「バ、バカを言え! お、俺は本当に……」
 大神さんはそう言っているが、動揺を隠し切れていない。
 顔を引きつり、声が裏返り、爪先を小刻みに上下させている。
 挙動不審にもほどがある、普段真面目で嘘を付くような人じゃないから不破さんより分かりやすい。
「大神さんが来てくれて本当に大助かりです、何せ男手が足りない物ですから」
「い、いえ! 自分で役に立てる事ならどんな事でも致します」
 綺麗な角度だ。
 大神さんは背筋を伸ばすと上半身を40度前に倒した。
 すると花梨さんは頬を緩めた。
「あ、ごめんなさい、立ち話もなんですし、お茶を用意しますね」
 そう言いながら花梨さんは園内に入って行った。
 その背中を見送ると私を含めた全員が一斉に大神さんを見た。
「良い子だね〜、バイスぅ?」
「犬っころの分際で……」
「だから違うと言っているだろう!」
 大神さんは叫んだ。
 でも何だか新鮮だった。
「まぁ良いじゃねぇか、あの子も異星人なんだし、悪い事にはならねぇよ」
「えっ、異星人? 花梨さんが?」
「マイ、知らなかったの?」
 不破さんは言って来た。
 花梨さんはフィーラ星と言う惑星に住む異星人だと言う。
 ただフィーラ星はとある事情で滅んでしまい、彼女は数名の仲間と供にこの銀河にやって来て暮らしているらしい。
 確かに地球人なら説明するのに色々面倒だろうけど、異星人同士ならそれは必要は無い、周囲に存在がバレなければ上手くやっていけるはずだ。
 そんな事を考えていた時だった。
「あれ?」
 私がふと幼稚園の門の外を見ると1人の男がこちらを見ていた。
「どうした?」
 兄貴もつられて私の見ている先を見る。
 すると男はその瞬間、振り向いて歩き出した。
「何だあいつは?」
 兄貴は眉を細めて首を傾げた。