SAⅤIOR・AGENTⅡ
一瞬何が起こったのか分からなかった。
こいつの体が見た時の1回りも2回りも巨大化し、どす黒く変色すると目が血走るどころか真っ赤に染まった。
千鶴ちゃんは何が起こるか分からないと言ってたが、まさかここまでヤバくなるとは思ってもみなかった。
「おいおい、あの旦那の体温が異常に高まってる、細胞も突然変異を起こし始めやがったぜ」
「班長の言ってた副作用か、こうなったら作戦変更だ。一気に検挙するしかない!」
「だな、セイヴァー・ギア、オンッ!」
オレはギルを握りセイヴァー・ギアを装着すると暴走したディランに向かって走り出した。
ディランは腕をオレの頭上から振り下ろした。
オレは寸のところでジャンプして交わして体制を変えて相手の背後に回り込み、ディランの両脇に腕を回して固定する。
『ガアアッ! ギャアアアッ!』
ディランは大暴れする。
想像以上のパワーアップだ。
セイヴァー・ギアでもいつまで持つか分からない。
「早くしろ、犬っころ!」
「言われずともっ!」
バイスはセイヴァー・アームズを構えて突進する。
そして大きく振り上げたポール・アクスの刃が金色の光を放った。
「α・モー……」
言いかけたその瞬間、ディランが大きく口を開いた。
『ガアアアアアッ!』
「ぐうぅっ!」
奴の咆哮の威力が上がっていた。
大気が震えて大地が爆ぜた。
まるで音の爆弾だった。
普通の人間ならこの至近距離で耳を塞いだって鼓膜が破れて脳ミソが破壊されるだろうが、生憎脳ミソ以外作り物の為にオレは何とか耐える事が出来た。
だけど耐えるって事は効かない訳じゃ無い、オレとバイスは優に5メートルは超える距離を吹き飛ばされた。
後ろにいたオレはまだ良かった。真正面にいたバイスは奴の咆哮をまともに受けた訳だからひとたまりも無かった。
恐らく内臓を痛めたのだろう、バイスは口から血を吐きながらもがき苦しんだ。
「ぐっ……うああっ……」
「バイス! 野郎っ!」
サイモンはセイヴァー・アームズの引き金を引いた。
β・モードの圧縮エネルギーが放たれ、奴の腕や肩で爆発して火花が飛んだ。
親友がやられても冷静に急所を外すこいつはさすがと言いたいが、奴に対して効果が無かった。
多少鱗の皮膚が破けて緑の血が噴き出した。そこまでは良いが傷口が瞬時に回復してしまった。
「嘘だろ……」
サイモンも息を飲んだ。
しかしその一瞬が隙を作った。
『ガアアアアっ!』
ディランが外れたかと思うくらい顎を広げると紅蓮の火球が放たれた。
暴走しているので狙い辛いんだろう、火球は直接サイモン達には命中せずに一歩手前で爆発した。
しかし爆発の力は凄まじく、まるで隕石でも落ちて来たかのように大地を破壊し、クレーターを作ってバイスとサイモンを吹き飛ばした。
「ぐっ……ここまでとはな……」
地面に転がったサイモンは忌々しそうに舌打ちをした。
ディランの暴走はさらに増し、吐き出した炎が辺りの木々に燃え移り始め、足元の木の葉もあまりの高熱に発火し始めた。
完全に普通じゃなくなってる、こいつをこのままほおって置いたらとんでもない事になる。
とは言え方法が分からない、α・モードで相手を切れば何とか転送は出来るが、これは賭けだ。
α・モードはセイヴァ―・アームズのエネルギーをやたら使用する、しかも転送する物量は相手にもよる、破壊目的のβ・モードの銃撃をあの程度で済ませたんだからオレのセイヴァ―・アームズの全エネルギーを使っても出来るかどうか……
するとその時だ。
空で何かが光るのを見えた。
「みんな――――っ!」
空からオレを呼ぶ声が聞こえた。
声の主はファーランで、背中の羽根を羽ばたかせながら物凄い勢いで降下して来た。
オレの目の前に降り立ったファーランにオレは言う。
「おま…… 何で?」
「命令だよ、アタシも戦えってね」
ファーランは前髪からロンを外した。
「行くよ、ロンっ!」
『お嬢、班長から貰った痛み止めには限界があるわ、無茶はしないでね』
「ダイジョ〜ブっ!」
こいつの大丈夫は1番当てにならない。
だがファーランはロンを突き出して叫んだ。
「セイヴァー・ギア、オンっ!」
眩い光が放たれるとデータ化されたセイヴァ―・ギアがファーランの体の表面上で復元されて装着された。
全身白い装甲、琥珀色の1本角が生え、元左右の耳部分に魚の鰭を模した形状の機械が取り付けられた赤いゴーグル付きのヘッドギア。
扇を広げて曲げた状態の両肩に胸の中央にロンが装填された白いプロテクター。
ベルトの中央にはセイヴァー・エージェントの紋章が描かれたバックルに左右にペンシル状の垂に3本の爪で引っ掻いたような赤いラインのウェスト。
肘に赤いひし形の結晶体が取り付けられた白いガントレットの上から手首部分をすっぽり包み込んだ赤い2重の赤いラインのリング。
赤いひし形の水晶が膝に取り付けられたブーツと言う姿になった。
オレの全身フルアーマーと違い、部分開放の部分が邪魔にならないように設計され、さらに両腕と腰と踵部分にはロケットの発射口の様なパーツが取り付けられていた。
「……デザインはまぁいいか、サイモンにしちゃ上出来じゃん」
「言ってくれるぜ…… お前がギャースカうるせぇから造り直したってのによ」
サイモンは苦笑する。
って事はこいつは案の状怪獣みたいなデザインでも考えてたって事になる。
ファーランの問題は片付いた。
だがもう1つ問題が残ってる、それはこいつをどう倒すかだ。
「大丈夫か? あいつの力は想像以上だ」
「ああ、心配ねぇよ、妹のおかげで計算もなんとかなった」
舞のおかげ?
一体何の事か分からなかった。
その答えは次の瞬間に分かった。
「はっ!」
ファーランが気合いを放つと両踵と両腕かのパーツからエネルギーが噴き出した。
するととんでもないスピードでディランとの間合いを詰めると右拳を顔面に突き立てた。
『グハアアッ!』
ディランの鋭い歯がいくつか砕け、宙でスピンしながら吹き飛ばされると細い木々をなぎ倒して地面に倒れた。
さらにファーランの追撃は続く。
「たああああっ!」
フラ付きながら立ち上がるディランに向かって走り出すファーラン。
ファーランの両腕とパーツがエネルーを噴きだすと奴の胸部に連続パンチを浴びせた。
前かがみになった所で今度は右踵のパーツがエネルギーを噴くと爪先で蹴りあげた。
『ガアアッ!』
ディランは宙で山を描きながら枯れ葉ばかりの地面に倒れた。
ファーランは身を構えて息を整えた。
圧倒的な戦い振りにオレは声を失った。
「攻撃は最大の防御なら防御は最大の攻撃だ。加速を付けて殴りつけりゃ威力も上がるってモンだ」
サイモンは鼻で笑った。
元々セイヴァー・ギアは弱点を補う為に作られた。
無理やり抑えるからこそ上手くいかなかった。
余分なエネルギーを両腕や腰や足から噴きだす事でファーランの体術と合わせれば威力も上がる。
サイモンがさっき『妹のおかげで』と言っていた。
舞がこの事を教えたって事か?
『グルルル……』
だが奴も随分タフになったモンだ。
作品名:SAⅤIOR・AGENTⅡ 作家名:kazuyuki