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SAⅤIOR・AGENTⅡ

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 放課後になって私は兄貴達のマンションへやって来た。
 兄貴から不破さんの様子を見て欲しいと頼まれたからだった。
「またこの部屋に来るとは思わなかったわ」
 私は顔を顰めた。
 不破さんの部屋は夏休みに訪れて以来だけど、凄い部屋としか言いようがなかった。
 何しろアニメや特撮のDVD、漫画やコスプレ衣装も揃っている、オタクグッツ博物館としか言いようがなかった。
 私はドアノブに手を当てた瞬間った。
「あれ?」
 鍵がかかっていた。
 ここじゃないって事はセイヴァ―・ベースの方と思いそっちへ向かった。
 
 案の定セイヴァ―・ベースに不破さんはいた。
 だけどサロンでもメディカル・ルームでもなくトレーニング・ルームだった。
「はああっ! りゃああっ!」
 不破さんはセイヴァー・アームズを構えながら素振りをしていた。
 頭に包帯を巻いていると言う事はまだ治って無い証拠だ。それにもかかわらず特訓をしていた。
 私は慌ててトレーニング・ルームに入った。
「不破さんっ!」
「うええっ、マ、マイっ?」
 私の声にビク付いて不破さんが振り向いた。
 私は眉を吊り上げながら不破さんに近付いた。
「怪我が治って無いのに、何でこんな事してるの? 傷口が開いたらどうするのよっ?」
「ダイジョーブだよ、アタシはドラン人だし、地球人より頑丈にできてるよ」
「そんな根拠がどこにあるのよ!」
 私は叫ぶ。
 地球人だろうと異星人だろうと怪我人は宇宙共通怪我人だ。
 自分が体を壊すのは自分の勝手だ。でもそれで迷惑する人だっている…… 私はそれを話した。
 すると不破さんは目線と小さな肩を落とした。
「黙ってられないよ…… あれだけ大口叩いて負けちゃったんだから……」
「だからって……」
 私はケーキ・バイキングの時の不破さんを思い出した。
 あの時彼女は『アタシにセイヴァー・ギアは必要ない』と言い切った。
 相手がドーピングとは言え負けは負けだ。言いきった後に打ちのめされたのだから落ち込むのは無理はない。
 しかし特訓しているのはそれだけでは無かった。
「……それに、マイに何もしないって保証もないよ」
「あっ」
 私は目を見開いた。
 あの時、私はあの場所にいて、ディランも私の姿を見ていた。
 私に何もしない保証は無い、危険に巻き込みたくないと思ってでの特訓なのだろう。
 不破さんには家族がいない分、仲間や友達を大切にしたいと思う気持ちが大きい、私も彼女と同じタイプだから良く分かる。
『お嬢、だから言ったのよ…… 大人しく部屋に戻りましょう』
「ちょっとアンタね! 怪我した相棒を治すのがサポーターの努めじゃないのっ? しっかり治しなさいよ!」
『無茶言わないで、サポーターにだって出来る事と出来ない事があるのよ、回復するのはお嬢自身なんだから……』
「そうよ、兄さん達だって戦う時は万全の状態でしょう? 今回だって……」
「えっ?」
「あっ!」
 私は慌てて口を塞いだ。
 でも時すでに遅し、不破さんは目を吊り上げながら訪ねて来た。
「どう言う事? タクミ達はどこよっ?」
「そ、それは……」
 まずった。
 部活の助っ人と言えば調べに行くに決まってる、用事ができて出かけたと言っても通じない訳が無い。
 人間慌てると上手く頭が回らない、口を開くのは不破さんの方が早かった。
「まさか出撃? そうなのね?」
「ちょ、待って! そう言う訳じゃ……」
「ロン! どうなのよ?」
『うっ……』
 ロンは口ごもった。
 サポーターには地域で活動しているセイヴァ―・エージェント同士の連絡や任務が通達される、つまり兄貴達の任務やディランの居場所も知られている。
 不破さんは顔を強張らせると私を横切り、出口の方へ走った。
 でも私は手を伸ばすと不破さんの細い腕をつかんだ。
「何すんのよ、離してよ!」
「そうもいかないわよ、不破さんじゃまた返り討ちじゃない!」
「何よそれ! 1回負けたからって次負けるなんて誰が決めたのよ?」
 不破さんは私の手を払う。
 1度負けたら次は勝てるなんて、まるで漫画みたいな展開だ。
 でもこれは漫画でもアニメでもラノベでもない現実だ。世の中そんなに甘くない。
 不破さんはオタクだけどリアルとバーチャルの区別は(一応)ついている、時には引き際だって大事だ。
「じゃあマイは諦められる? 今度こそタクミに何かあったら、それこそ後悔しないの?」
「えっ、それは……」
「アタシだって負けたんだよ、タクミ達で何とかできる訳ないじゃん!」
 不破さんは真剣な瞳で私を見て来た。
 理屈は分かる、不破さんは兄貴達が束になって腕相撲した所で勝つ事は出来ない。
 不破さんの力が加われば相手の検挙は楽になるだろう。
 だけど……
「やっぱりこうなったわね……」
 するといつの間にか入口に里中先生が立っていた。
 里中先生は半分諦めてると言った感じで言って来た。
「妹さんも意外と説得が下手だからね……」
「チヅルちゃん…… 言っても無駄だよ、アタシは……」
「そうね、そんな場合じゃないし…… ただしその代わりこれだけは持って聞きなさい」
 里中先生は左耳からエンゼルを外すと不破さんにかざした。
 エンゼルから一筋の光が放たれるとそれはロンに吸収された。
「今の……」
『これは……』
「ファーラン、改めて命令するわ、タクミ君達を助けなさい…… ただし、確実にそれを使う事」
「了解!」
 不破さんは力強く頷くとトレーニング・ルームを出て行った。
 私は里中先生に尋ねた。
「先生、行かせて良いんですか? まだ怪我も治って無いのに」
「状況が変わったわ、それに今度は勝てるわよ…… 貴女のおかげでね」
「えっ? 私?」
 里中先生は微笑するが私には何の事やら分からなかった。