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SAⅤIOR・AGENTⅡ

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「やっと会えたな、黒幕さんよ」
 オレは廃工場の中に入って行った。
 目の前にいるベイジャーに近付度にベイジャーは後ろに下がった。
「ど、どうしてここが?」
「簡単だよ、そいつに発信機を付けといたんだ。身体検査でもさせとくんだったな」
 今頃は誘拐した連中もバイス達が検挙してるはずだ。
 ギルに頼み込んで調べて貰ったがこの工場にはこいつ以外にいない、つまりこいつを検挙すればお終いだ。
「ヴィア星人、ベイジャー・リー…… 殺人未遂および児童誘拐の現行犯で逮捕だぜ」
「チッ!」
 ベイジャーは林太郎に向かって手を伸ばした。
 太い左腕で林太郎の首を絞め、胸倉に右手を入れると一丁の拳銃を取り出し、林太郎のこめかみに銃口を当てた。
「動くな! もうすぐこいつの父親が来る、それまでジッとしていて貰うぞ!」
「ああ、いいぜ…… オレはな」
「なに?」
 ベイジャーは眉をヒクつかせた。
 すると林太郎が目を見開くと拘束されている紐を力づくで引きちぎり、ベイジャーの両手首をつかんで自分から引き剥がした。
「なっ、何っ?」
「甘いよ!」
 林太郎はさらに力を入れる。
「ぐああああっ!」
 ベイジャーの顔が歪んだ。
 まるで万力に絞められたように両手に激痛が走ったベイジャーは右手の拳銃を落とした。
 それを確認した林太郎は手を離して身を翻し、相手の腹部に渾身のストレートパンチを繰り出した。
「ぐはぁ!」
 今度はベイジャーは地面に転がった。
 見事に水月に入った為にベイジャーはもがき苦しんだ。こりゃ痛いわ……
「おい、さすがにやり過ぎだろ」
「良いんだよ、このくらい」
 林太郎は口をへの字に曲げた。
 実はこいつは林太郎に変身したファーランだった。
 あの後、オレ達は桜星小学校に向かって事情(早川さんの事は内緒にして)を話して林太郎に少しの間だけ下校するのを待って貰った。
 そしてファーランを替え玉にする事でベイジャーの隠れ家へ案内させてもらったって訳だった。
 今頃は家に着いてる頃だ。
「女の子殴るなんて最低よ!」
 ファーランはビシッ! っと人差し指をつき差した。
 こいつにとっちゃ蚊が刺した痛みすら感じないだろうに…… なんてツッコミ入れたらうるさいから黙ってる事にした。 
「くそっ!」
 ベイジャーはオレ達に向けてレーザー銃を発砲した。
 オレとファーランは左右に飛んで回避する。
 身を翻しながらファーランは自分のセイヴァー・アームズを転送して構える。
「はああっ!」
 ファーランはベイジャーに向かって走りだした。
「くそっ! くそぉぉっ!」
 放たれるレーザーを叩き落としながら間合いを詰めた。
「α・モードっ!」
 右拳を放った。
 慌ててベイジャーは回避する。
 こいつは身のこなしがなって無い、武器は持っていてもただの素人だ。
 戦闘経験が無い奴と戦うなんざ気が引けるが今は非常事態だ。こいつを倒して早川さん達を救う、それだけだ!
「ファーラン、オレも行くぜ!」
 オレもセイヴァー・アームズを振るって飛び込んだ。
 2人がかりで余裕が無くなり、ベイジャーは逃げる事しかできなくなった。
 レーザー銃を落としたベイジャーは工場の隅に追いやられた。最早戦う術の無くなったこいつは唇をかみしめながらオレ達を睨みつけた。
「ここまでだな」
 オレは切っ先を付きつける。
「くそっ、お前等何なんだ? 何で邪魔するんだよ?」
「ああっ?」
「オレはあいつに人生を狂わされたんだ。復讐して何が悪い?」
「ふざけんな! テメェの言う通りあの人は昔は犯罪者だった…… だが今は違う! 十分苦しんで罪を償ったんだ。これ以上やるってんなら覚悟はあるんだろうな?」
 オレは踏み出した。
 だがその時だった。
「待ってください!」
 オレ達は振り向いた。
 そこにいたのは何と早川さんだった。
「早川さん、何で?」
「そう言えばさっき『もうすぐ来る』って……」
「もう、良いんですよ……」
 早川さんはゆっくりと歩いて来ると床に落ちているレーザー銃を拾い上げた。
「自分の後始末くらい…… 自分で付けます」
 そう言いながら早川さんは銃口を自分のこめかみに着きつけた。
 何考えてんだこの人っ?
「早川さんっ!」
「私はあの事件の事を1日たりと忘れた事は無かった。でもやっと解放される…… 楽になれる」
「寄せ!」
 オレは早川さん目がけて手を伸ばした。
 しかし間に合わない、引き金を引く指の方が早かった。
 だが……
「なっ……」
 銃声が響く中、オレは…… いや、この場の者達は目を見開いたまま動く事が出来なかった。
 早川さんが自決する瞬間、バイスが現れて彼の右手首をつかんで銃口の先をてんじょうに向けた。
 早川さんの頭を打ち抜くはずだったレーザーは天井を打ち抜いて薄暗い工場内に光が入った。
「くだらない事は止めろ」
 バイスは眉間に皺を寄せながら言った。
 すると我に返った早川さんはバイスから手を振り払おうとする。
「は、離してください! もう良いんですよ! 僕は死んだ方が良い人間なんです!」
「ふざけるな、良く見ろ!」
 バイスは入口の方を見る。
「あなた!」
「お父さんっ!」
 そこにいたのは奥さんと林太郎だった。
 恐らく連れて来たんだろう、その後ろにはサイモンもいた。
「お前達…… 何で?」
 訳が分からないと言わんばかりに戸惑う早川さん。
 するとサイモンが吐き捨てるように言って来た。
「見て分からねぇのかよ、アンタの命はアンタのモンじゃねぇって事だよ」
「サイモンの言う通りだ。確かに今の貴方には生きる価値は無いかもしれない、だが死ぬ価値はさらに無い…… 罪の意識に苦しむなら苦しんで生きろ!」
 バイスの言葉に早川さんは目を落とし、銃を持つ手を降ろした。
 奥さんと林太郎は涙を流しながら早川さんに近寄り抱きついた。
 その姿を見るとオレはベイジャーを見降ろした。
「お前の気持ちは分かるぜ、だけど自分がやられたからってやり返したら、結局同じじゃねぇのか?」
「くっ…… ううぅ……」
 ベイジャーはその場に泣き崩れた。
 いつもと違い、今回は静かにかたがついた。