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SAⅤIOR・AGENTⅡ

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 その頃。
 ガドリアの爆発で吹き飛んだバイスだったが、間一髪のところでセイヴァー・アームズをβ・モードに切り替えるとアムログの砲撃を払うと同時に体を丸めた。
 爆風に吹き飛ばされてボールの様に地面に転がったおかげで大事には至らなかった。
 だが全く無事と言う訳ではなかった。
「ぐっ……」
 セイヴァー・アームズの石突きを支えに立ちあがろうとするが全身に痛みが走った。
 確かにバイスはアムログの砲撃を防ぐ事は出来た。
 しかし爆破の衝撃まで防ぐ事は出来ず、その細い全身に激痛が走って身を強張らせた。
 そこへアムログが颯爽と間合いを詰めるとバイスに向かって左腕を伸ばした。
 砲口にエネルギーが集まるとアムログの目が輝いた。
『終わりだ。セイヴァー・エージェントッ!』
 止めの一撃が放たれようとした。
 アムログの左手の先端に眩い光が集まったその刹那、バイスは目を見開いた。
 体を捻って軽く宙で反転するとセイヴァー・アームズを振り上げた。
 途端セイヴァー・アームズにアムログの腕が弾かれると照準はバイスから大きく逸れた空高くに砲撃が放たれた。
『何っ!?』
 突然の事に驚くアムログ、その瞬間を狙ってバイスは地に足を付けると渾身の力を得て間合いを開けた。
 純粋な攻撃力ならばガドリアやゼンガーよりアムログが最強だろう、しかし得物であるマイクロ・キャノンは連射が出来ない、回避されればチャージに時間がかかる。
 だがそれは武装が1つである場合の場合だ。アムログは口の中にももう1つマイクロ・キャノンを内蔵している。
 すぐさま背を向けたバイスに向かって口を開くと口内のマイクロ・キャノンにエネルギーが溜まり始めた。
 だがバイスも何も考えていなかった訳では無かった。
 バイスは逃げ回っている間に『ある物』を手に入れていて、それをアムログに向かって放り投げた。
 そのある物とは先ほど恵が操られていた時に使っていたナイフだった。
 ナイフの切っ先はアムログの口内に突き刺さると溜まったエネルギーが暴発した。
『グゲェアアーーッ!』
 顎部分が粉微塵に砕け散り、エネルギーが火花を散らした。
『アガ、アアァーーッ!』
 顎を失い喋る事すらままらなくなったアムログ。
 苦しみもがいてよろめく姿を前にバイスは深く息を吐きながらゆっくりと立ち上がって呼吸を整えながら吐き捨てた。
「フン、最大の武器が最大の弱点になるとは…… 皮肉だな」
 戦闘民族であるヴォルフ星人にとって自分より強い相手と戦うなど良くある話だ。
 だがその相手が『強敵』なのは間違いないが『無敵』と言う訳ではない、今まで培ってきた経験がそう言っていた。
 正直ナイフを見つけたのは偶然なのだが、予め自分の頭の中で組み立てていた戦術の保険に付け加えておいたのは正解だった。
 戦術とはただ考えた通りに動けば言いと言う訳でも無い…… ホンの僅かなアドリブで手順が狂わされてしまう事もあるからだ。
 それを補う為に二重三重の次の手を考えておく必要がある、まさに『切り札は最後まで取っておく』だった。
「これ以上、この惑星には手出しさせん」
 以前のバイスならばこんな台詞は言わなかっただろう、するとバイスの頭の中に今まで出会ってきた人々の顔が浮かんで来た。
 バイスの故郷ヴォルフ星は弱肉強食の完全な縦社会だった。
 よって上の者達の言う事こそ絶対で、下のものは従わなければならなかった。
 バイスも当時それが当たり前と思っていた。宇宙に行って銀河連邦軍に入ってからもその考えは変わらなかった。
 ただ受けた命令を忠実にこなし、敵と戦い倒す事だけが当たり前の事だと思ったその時、自分の考えが大きく変わる事が起こった。
 それは宇宙密偵団体に引き抜かれた時に知り会ったチームメイト達の影響だった。
 彼らと供に訓練に励み、時には言い争いになった事もあったのだが、その出会いがバイスの人生を変える大きなきっかけとなったのは間違いなかった。
 そして地球に配属が決まり、地球の生活に溶け込んでいる内に自分は悟った。
 それはこの世に絶対なんか無いと言う事だった。
 与えられる命令より大事な物がある、使命や掟を破ってでも守らなければならない物もある。
 自分が持つ力はただ敵を倒すだけの物では無い、ましてや仕事だからではない、戦う力を持たない者達の為、力弱くとも懸命に生きている者達の為、そんな人々を守る為にあるのだという事を。
 両手で顎を押さえながら苦しむアムログの前に立ち塞がったバイスはセイヴァー・アームズの石突きを床に突き刺すとがら空きになった右手を左腕のファングを握り締めた。