ＳＡⅤＩＯＲ・ＡＧＥＮＴⅡ
エピソード１３，正義ｖｓ怒り
兄貴達がいなくなって直ぐ、里中先生はスマホを取り出した。
それは勿論エイリアン・ハンターと瀕死の浦木を病院に搬送する為だった。
現在殆どのセイヴァー・エージェントはオメガの戦闘兵器鎮圧の為に出向いている、でもセイヴァー・エージェントに協力している病院(以前塩田さんが運ばれた所)は運営していると言う。
するとその時だった。
「止めて！」
倒れているエイリアン・ハンター達の中で葛西さんが顔を顰めながらロクに力の入らない両手に力を入れて上半身を持ちあげた。
他のエイリアン・ハンター達も顔を曇らせながら私達を見上げた。
「どうして助けたの？ 私達は敵なのよ？ あのままほおって置けば良かったじゃない！」
「そんな訳にも行かないでしょう、それに貴女達は……」
「被害者だと言いたいの？ 気休めは止して！ 宇宙人に人生を台無しにされた揚句にそんな男に利用されて、殺そうとした貴方達に助けられるなんて最大の侮辱よ！ いっそ死んだ方が良かったわ！」
「死んだ…… 方がッ？」
今の言葉が耳に入った瞬間、私の心は怒りに染まった。
そして右手に力を入れると葛西さんに近づいて行った。
里中先生が私を止めてるみたいだけど今の私の耳には届いていない、私は左手を伸ばして葛西さんの胸倉をつかみ上げると右手で思い切り平手打ちをかました。
バチンッ！
と言う音が夜空に響き、しばらく沈黙が走った。
エイリアン・ハンター達は驚きのあまり目を見開いたまま硬直している…… 後ろにいるから分からないけど、多分里中先生もそうだろう。
でも関係ない、私はこの場にいる連中に向かって叫んだ。
「ふざけんなっ！」
我慢できなかった。
異星人達に酷い目に遭わされたにしろ、騙されていたにしろ、その怒りを何の罪も無い異星人達にぶつけていた。
中には悪い奴らだっていたんだろうけど、だからって殺して良い理由にはならない、こいつらの言ってる事はただの奇麗事だ。
正直言って頭の中が混乱している、何て言って良いのか分からない、でも言わなきゃ気が済まなかった。
でも十分だった。エイリアン・ハンター達は自分達の仕出かした事を思い出すと口を紡いで目線を落とした。
私は葛西さんに近付くと両手で胸倉をつかみ上げた。
「アンタ達が殺して来た異星人だって残された人や奪われた人達がいなかったと思ってる訳？ 地球人だけがそんなに特別だって言うの？ 大義名分ネタに人の幸せを奪うテロリストのクセに、この偽善者っ！」
私は今まで兄貴しか殴った事は無い、それ以外の人は殴るつもりも無かった。でもこの連中達だけは別だ。
姿形、まして住んでる場所が違えど人間は人間だ。
右手に力を入れると今度は葛西さんの顔面目掛けて腕を引いた。
でも殴ろうとした瞬間、里中先生が私の手首をつかんで止めた。
「一度目は許すわ、でもこれ以上はダメよ、妹さん」
「里中…… 先生」
私は目を見開いた。
里中先生が首を振ると私は我に返った。
頭に上った血が治まり、右手から力が抜けると同時に里中先生も手を離した。
正直まだ怒りは治まって無い、でも殴る気は失せた。と言うより冷静に考えてみるとこんな連中に殴る価値なんて無かった。
だけど気まずくなった私は里中先生からもエイリアン・ハンター達からも目を反らした。
里中先生は体目息を零して気を取り直すと目を細めてエイリアン・ハンター達を見た。
「貴方達がどんな正義を振りかざそうが勝手よ、所詮正義なんて人それぞれ何だし、私達は気にしたりはしない…… 正直私も妹さんと同じ考えよッ！」
里中先生も怒りを隠せずにいた。
抑えているのがやっとって所だ。
その里中先生の威圧に押されたエイリアン・ハンター達は慄いて両肩を震わせた。
「……貴方達のした事は地球でも宇宙平和条約でも裁く事は出来ない、ただ死んで楽になれるなんて決して思わない事ね」
里中先生はエイリアン・ハンター達に背を向けた。
エイリアン・ハンターもこれ以上何も言わなくなった。
どうやらこちらは完全に決着が付いたみたいだった。
（このくらいで良いか）
彼等は十分に苦しんだんだし、心が折れて何も出来なくなった相手にこれ以上追いうちは不要だった。
作品名：ＳＡⅤＩＯＲ・ＡＧＥＮＴⅡ 作家名：kazuyuki