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SAⅤIOR・AGENTⅡ

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「くっ!」
 オレは恵ちゃんの攻撃を紙一重で交わし続けた。
 恵ちゃんは何の躊躇も無くオレに拳を突き出して来た。まぁ、洗脳されてんだから当然と言えば当然だ。
 そう言えば半年前に格闘技を習ってたって言ってたな、すっかり忘れてたが本気で取り組めば全国は狙えずとも良い所まで行くだろう。
 勿論それは普通の人間ならばの話だ。身のこなしや隙のない攻撃は見事なモンだ。だが今の恵ちゃんは普通じゃ無かった。
 明らかに威力と速度がケタ違いだった。拳を交わす度に風圧でオレの頬が裂けて血が滲み出て来た。
「はっ!」
 恵ちゃんは一度右足を引くと腰を捻って振り上げた。
 オレはとっさに両手でガードするが、恵ちゃんのハイ・キックが炸裂するとミシミシッと言う音を立ててながら激痛が走った。
「グッ!」
 オレは顔を顰めた。
 普通の人間なら両腕複雑骨折どころかブチ破って頭が胴体とお別れレベルだ。
 オレの場合は足からその場所を踏みしめていると言う感触が消えて無くなり体がフワリと浮き上がるとバットで打たれたボールの様に宙に吹っ飛んだ。
「がああっ!」
 直線状にいたエイリアン・ハンター達は左右に分かれてオレを交わし、大体5メートルくらい飛ばされるとアスファルトの床に転がった。
 間違い無い、恵ちゃんは超能力を使っていた。
 恐らくは剛田みたいに身体能力を上げる能力なんだろう、パワー自体は劣るが圧倒的なスピードと恵ちゃん本人の戦闘スキルが相まってまともに当たれば大ダメージだ。
 オレの腕にも少し痛みが残っている、破損した細胞は直ちに修復されてはいるが、現在確認されている中で最も弱い…… と言うか下から数えた方が早い地球人がここまで戦える訳が無い。
「どうだね? 相手が仲間なら手も足も出まい?」
「テメェ……」
 オレは備渡を睨みつけた。
 オレを巻き込む為だけに恵ちゃんを超能力者にして襲わせる、卑劣通り越して完全な外道だった。
 だが恵ちゃんの攻撃を受けざる負えなかった。見ると恵ちゃんの指の皮が破けて真っ赤な鮮血が吹き出ていた。
 どんな手を使ったかは知らないが超能力を使えるようになるには『自然に使えるようになった』のと『誰かに習う』が存在する。
 昨日今日使えなかった恵ちゃんがいきなり使えるようになるなんてありえない…… となると後者しか無いが、後者にも2種類あって『自分で頼む』のと『無理やり目覚めさせる』がある、こちらも後者なのは火を見るより鮮やかだ。
 いずれにせよ細胞強化の超能力を身に着けたのならそこから能力と身体能力を馴染ませる訓練を受けなければならなかった。
 恵ちゃんはそんな訓練を受けて無い、となるとこのまま長引くとヤバい事になる。
「はぁ、はぁ……」
 そろそろ限界だ。
 証拠に恵ちゃんの呼吸が荒くなって動きもぎこちなくなって来た。
 攻撃を受ければオレの方がダメージ、とは言え攻撃を交わし続けると風圧で恵ちゃんがダメージを受けてしまう。
 高速で動いてる分体と臓器にかかる負担が大きい、下手すると二度と立って歩く事もできなくなるばかりか命を落としてしまう。
 すると備渡はさらに言って来た。
「いい加減に我々の仲間になると誓いたまえ、君も地球人なんだから宇宙人どもに手を貸す理由はないだろう?」
「オレも言ったはずだ。オレは地球人だの異星人だのどうでも良い、ただ舞を守るだけだ!」
「ならば塩田君を倒せば良い、彼女は他人だ。他人の事等どうでも良いはずだ」
「そうも行くか! あいつは誰かを犠牲にして助けても喜びゃしねぇんだよ!」
「ほう、ならばこれならどうだね? 塩田君、プランBだ」
「はい」
 備渡が命令する。
 すると恵ちゃんは後ろに飛んで間合いを取ると上着から小さな折り畳みナイフを取り出した。
 そして鈍く光る刃を自分の白い首筋に突き立てた。
「なっ、恵ちゃ……」
「動くな!」
「くっ!」
 備渡が叫ぶとオレは動けなくなった。
「それ以上動けば、彼女は自分の首を切って自殺する事になるぞ」
「リーダー、待ってください!」
 備渡の隣にいた女の子が言って来た。
「話が違います、彼女は一切傷つけないって言ったじゃないですか」
「葛西、事情が事情だ。こうなっても仕方ないと話していただろう」
「で、ですけど……」
 葛西って呼ばれた女の子は戸惑っていた。
 すると他のエイリアン・ハンター達が言って来た。
「止せ葛西、リーダーの言う事は正しいんだ!」
「そうだ。例え地球人でも敵は見捨てる、そう言うルールだろ」
「どうせ宇宙人達とグルだった奴だ。死んだところで自業自得だ!」
(……野郎ッ!)
 言いたい放題の連中にオレは頭の中が沸騰寸前だった。
 助けた連中が敵になったり、犯罪者よりタチの悪いクズ野郎だった事なんて良くある事だ。
 この商売やってれば殴りたくなる時(と言うか殴った事もあった)もある、オレもファーラン達もそれに耐えていた。
 こいつ等にも色々あったのは分かるが、オレ達にも我慢の限界ってモンがある、だがオレは恵ちゃんを見捨てる事は出来なった。
「さぁ、どうする? 彼女を生かすも殺すみ君次第だ。妹と彼女、君はどちらを選ぶ?」
 人の上げ足取りやがって……
 すでに勝ちを確認して人を食った様に言う備渡をオレは睨みつけた。
 だがオレには何の手も無いのは事実だった。
 人質は1人じゃ無い、恵ちゃんを助けた所で舞はどうなる?
 ここが何処だか分からない以上、恵ちゃんを連れて脱出した後に同じ場所に戻って来る事は不可能だ。
 テレポートは場所を強く思い浮かべ無ければ意味が無い、まして奴は舞のセイヴァー・ブレスを持っていて、さらにギルも取られるので舞の生体波長を辿ってテレポートする事は出来ない、それに何より時間が無さ過ぎる。
 舞は監禁されているだろう、なら見張りが付いててもおかしくは無い、その気になれば始末する事も考慮しているに違いなかった。
 そして何よりファーラン達もいない、あいつらも監禁状態みたいなモンだからな…… 援軍も期待できそうにない、八方ふさがりだった。
 いっそ仲間になる振りをして隙を見てズラかるか…… いや、記憶を読み取る奴がいるからそれは無理だ。
 諦めるしか無いのか…… そう思って目を瞑った瞬間だった。
「何をやってる!」
 聞き慣れない声が耳に入ってオレは目を見開いた。