SAⅤIOR・AGENTⅡ
新学期に向けて生徒会は大忙しだった。
期末テストも終わり、卒業式も終わって3年生はいなくなったけど、もうすぐ後輩として入って来る新入生の為に入学式の準備に追われていた。
生徒会でも副会長と会計の人がいなくなり、水城先輩が会長、私は副会長になった。
成り行きでなっただけなのに副会長になるなんて思わなかった。
朝早くに登校して生徒会の仕事を終わらせると教室へやって来た。
教室の中にはクラスメート達がチラホラ登校していた。
さすがに兄貴の姿は無かった。
何しろ兄貴は異星人犯罪者を追って今日は登校できないと連絡があった。
私が席に着いた時だった。
「し〜ろ〜が〜ね〜さん!」
やって来たのは松井さんだった。
「松井さん、どうかしたの?」
一応聞いてみる、どうせまたロクでもない事だろうけど……
すると松井さんは右手に持ったスマートフォンを私達に見せて言った。
画面には異星人…… グレイって言ったっけ? そのイラストに大きく赤い×印が付けられ、下に『ALIEN・HUNTER』と書かれていた。
「エイリアン・ハンター? ゲームか何か?」
「違うよ、地球に潜伏してるエイリアン達を退治してる人達のサイトなんだって、丁度動画も配信してるんだって」
松井さんは動画の再生ボタンを押した。
動き出した画面の中にはさすがに顔バレは不味いだろう、黒いニット帽やゴーグル、はたまたマスクやマフラーなどで顔を隠しているが、全員背中にエイリアン・ハンターのエンブレムの施された黒い皮のジャケットを着た5〜6人の男達が1人の男を追い詰めていた。
追い詰められているのは背は高いけど痩せていて、細い顎には無精ひげが生え、肩まである長い髪に黒い縁取りの丸い眼鏡をかけた…… 白いシャツの上から青いパーカーを羽織った黒いジーンズの男だった。
彼は左腕に怪我をしていて、そこを右手で抑えているのだけど指の隙間から血がにじみ出ており、破かれた袖も染まっていた。
でもその血の色に私は目が行った。何と赤では無く緑だったからだ。
『クッ! 地球侵略ハ失敗カ…… 最早コレマデダ!』
異星人が叫んだ。
途端体が膨れ上がると上半身の服と散り散りに弾け飛ぶと髪は鬼灯色に染まって逆立ち、皮膚が色黒に染まって耳の上から牛の様な角が生えた筋肉質の胴体と言う姿に変身した。
異星人は強く握った拳を振るって1番近くにいた男に襲いかかった。
でも異星人の拳が相手を殴る事は無かった。何故なら煙の様に消えてしまったからだ。
突然の事に驚く異星人は周囲を見回した。
すると……
『ウグッ!』
異星人の体が大きくビク付いて顔が強張った。
そしてゆっくり首を下に向けるとそこには緑の鮮血塗れの腕が自分の体を貫いていた。
背後には先ほど襲いかかった男がいて、男の手刀が背中から胸までを貫通していたのだった。
『ガハァ!』
男が手を引くとぽっかり空いた穴から夥しい程の緑の鮮血が噴水の様に吹き出し、異星人はその場に倒れた。
異星人は小刻みに痙攣させるとやがて事切れて動かなくなった。
そこで動画は終わった。
正直私はゾッとした。
トリックと言えばそれまでだけど、それにしてはリアルすぎる、まるで本当に異星人を殺してるかのようだった。
そんな事を考えていると松井さんがまるでヒーローでも見たかのようにはしゃぎながら言って来た。
「ね? ね? 凄いでしょ? 宇宙人倒しちゃったのよ」
「え? ええ…… まぁ」
とりあえず納得しながら頷いた。
作品名:SAⅤIOR・AGENTⅡ 作家名:kazuyuki