ihatov88の小咄集
3うちのおじいちゃん 4/27
虫歯が痛むので、朝から欠勤して治療をしてから出勤した日のこと。麻酔を射たれ喋ることすらままならない。せっかく入れてくれたコーヒーも口からダダ漏れで情けない。
「センパイ、虫歯ですか?」
「そーなんだよ。親知らずがうずいちゃってもう」
口からこぼれるコーヒーをハンカチで押さえながら答える。
「うちのおじいちゃんが『歯は大切にするんじゃぞ』と口が酸っぱくなるくらい言うんです」
確かに、歯が痛かったら食べ物も美味しく味わえない。口に入れてもダダ漏れする飲み物もしかり。
「おじいちゃんは『ワシがお前の年の頃は虫歯なんかなったことがない』と自慢するんです」
「へぇ、そりゃ確かにすごいね」
彼女のおじいさんを知らないけれど、それ相応の年齢であるのはわかる。それで虫歯がないのだからやっぱりすごいのだろう。
「今さらかも知れへんねんけど、どうやったら虫歯にならへんのやろ?」
「若い頃は戦時中で食べるものがなかったから虫歯にならなかったって」
確かに。虫歯の原因を入れなければ虫歯になるはずがない。
「それで、今はどうなの?」
「今ですか?おじいちゃん、今も虫歯ありませんよ、だって」
後輩はクスクス笑いながら答えた。
「おじいちゃん、歯がないんですもの……」
確かに虫歯はありません。おじいちゃんが言うのは自身の反省なんですね――。
作品名:ihatov88の小咄集 作家名:八馬八朔