ihatov88の小咄集
83戦場の厨房7/25
「隊長!吉本隊員が負傷して帰還しました」
「ええい、何てことだ。やむを得ん、吉本は厨房に回れ。代わりにワシが出る!」
「そんなことをしたら隊長!厨房はどうするのですか」
「ダメだダメだ。我々を待ってくれてる以上出動を拒否することはできないのだよ」
厨房の外は戦場と化していた。今日に限って注文の電話がひっきりなしに鳴る。いつもの倍、いや三倍以上はあるだろうか。
厨房にいる隊長とその部下たちは朝から総動員で対処に当たっている。お腹を空かせた人々が我々を待っている以上危険を冒してでも我々は出動をする。その一心だけで隊長は退院たちの無事を祈って戦場に送り出していた。
外に出た隊員が負傷したのは吉本隊員で三人目。相棒のマシンも自走不能になってしまった。危険極まりない外の様子、満身創痍の厨房、出動できるのは隊長だけになった、女性の隊員を出動させるわけには行かない。隊長は厨房を残存の兵力に託して自ら戦闘服を身にまとい出動の準備を整えた。
「隊長……」
涙目で食料を手渡す女性隊員。
「なに心配するな。無事に帰ってくるさ。ハラを空かせて待ってる人がいるんだ。それを見るだけで我々は癒されるのだよ……」
「気をつけて……」
「ああ……」隊長はヘルメットをかぶりマシンにまたがった「いやしかしホンマに……」
「何ですか、隊長?」
「何でこんな台風の日にどいつもこいつもピザ頼むんやろなぁ?」
「そりゃ店長躍起になって『店開ける』って言うからですやん」
「それもそうだ」
店長はお腹を空かせて待っているみんなのためにピザを載せて風がごうごうと吹く雨の中を旅立っていくのだった――。
作品名:ihatov88の小咄集 作家名:八馬八朔