ihatov88の小咄集
6超絶ラーメン 4/29
駅前のラーメン屋。のれんに書かれたラーメンの文字、達筆なのか雑筆なのかわからない。そしてのれんの端に描かれたオッサンの顔。立派な口ひげに鋭い眼光、頭にかぶったバンダナの側頭部に書かれた字は
「超 絶」
夜の路地裏では絶対にお会いしたくないその風貌。それを知ってか知らないでか、メシ時なのにのれんの前に人はいない。間違って入ろうものなら何されるだろうか。舌を抜かれるか、自分たちが出汁にされてしまうか。想像するのもおそろしい。
しかしココこそが隠れた名店なのかもしれない。人は見かけで判断しちゃいけない。そんなチャレンジャーの私は、火中の栗を拾う意気込みで「超絶」ののれんをくぐった。
「いらっしゃいませー!」
のれんの向こう、厨房の奥から威勢のいいドスの聞いた呼び声、ココまで来たらもう後には引けない。日本男児、ココは男を通さねば。
震える手でカウンターの椅子に手を掛けると奥から「超絶」がやって来た。
「何になさいますか?」
震える指で「超絶ラーメン」を指差すと、これまた威勢のいい声で
「超絶ラーメン一丁!」
と叫んだ。すると即座に
「ハイヨー!」
と答えて厨房に現れたのはキレイなお姉さま。
「どうぞ、ごゆっくり」
と言い残し、超絶はラーメン出来るまで店の奥でずっと待っているのだ。
……お前は御用聞きやったんかーい!
作品名:ihatov88の小咄集 作家名:八馬八朔