ihatov88の小咄集
30かわいい子には 6/25
母は五歳の息子を一人で電車に乗せて、自分の父の家に向かわせた。かわいい子には旅をさせよとは昔の人が言ったもので、息子は健気に独り旅に出た。
行った先は最近建て替えたと言う新築の家。母は息子に
「新しいおうちはどうだった?」
と質問するつもりでいた。
次の日、一回り大きくなって帰ってきた息子を出迎えて冒険の無事を労った。
そこで母は息子に質問した。
「新しいおうちはどうだった?」
と質問すると息子はニコニコしながら、
「うんかわらなかったよ」
「そう?そんなことないでしょ?」
「うん、でもホントにかわらなかったんだよ」
父は確かに家を建て替えると言っていた。でも息子の様子に嘘はなさそうだ。そこで母は実家の父に電話を掛けた。
「お父さん、本当に家立て替えたの?」
「おお、エエ家建てたぞ。今度はお前も来なさい、快適だぞ。まあお前にとっちゃあ思い出がなくなったかもしれんがのう」
ガハハと笑う父、こちらも嘘はない。
「疑り深いやっちゃのう、これでどうじゃ!」
ポケットの携帯が鳴った。どうやら父が写メを送ったようだ。
「ああ、そういうことね……」
写メに写った新居の写真。確かにかわらないようだ、「変わらない」のではなく正しくは
「瓦ない」
のだが。
作品名:ihatov88の小咄集 作家名:八馬八朔