ihatov88の小咄集
34面会 7/7
「167番、面会だ」
私はここでは167番と呼ばれている。「ここ」というのは塀の中だ。ここにいる者に良い奴は、いない。
家に帰ると男が妻に襲われているところを目撃し、私は男に瀕死の重傷を負わせたことでここに入っている。正当防衛を訴え続けたのに司法は過剰防衛と審判し言い渡されたのは懲役3年。そしてここの生活ももうすぐ3年になる。
「やっと、出られるんだ――」
当時妊娠していた妻とはそれ以後引き離された。だから、生まれてきた子どもにはまだ会えていない。私は子どもを抱きたくてここでは模範囚となって一日も早い出所を目指して日夜反省の日々を過ごした。
時折来る妻からの手紙と子どもの写真。
「私、待ってますから――」
その言葉でここの生活にも耐えられた。子どもだけでない、妻にも会いたい。
出所まで会うことをはばかっていたところに面会の呼び出しが来た。妻もがまん出来なかったのだろう。出所はもうすぐなのになんてかわいいんだ、と心の中で微笑みながら刑務官の後について面会室の廊下を歩く、色々な思いが頭を駆け巡るなか私は面会室の扉を開けた――。
「お……、お前」
「あんた……」
分厚い透明ボードの向こう、座っているのは妻に間違いない。横にいる小さな子は自分の子どもか?
「待ってる、私、待ってますから」
感極まって椅子から立ち上がった妻を見て、私は全身の力が抜けてしまった――。
おまえ、何で妊娠してるねん!
作品名:ihatov88の小咄集 作家名:八馬八朔