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ihatov88の小咄集

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48ノーベル賞のためには 10/17



 ピエール・ナッスーはノーベル賞を受賞したこともある稀代の天才物理学者。彼は妻のマリー・ナッスーとともに数々の発見をして人類の発展に貢献したが、近年は研究に満足な費用と設備が伴わず空論を並べる日々が続いていた。
 そんなピエールはある国から、
「我が国で後進の指導をしながら研究を進めませんか」
との申し出があり、政府のチャーター機で現地に赴いた。
 するとそこは今まで見たこともない設備と施設。国家が運命を賭けて莫大な投資をしたという。ピエールはこの施設に圧倒された。ここならどんな研究でも実験できそうだ。
「貴方が望めばどんな機材も費用も工面しましょう」
 政府はあくまで強気だ。
「なぜ、ここまでの費用を投じることができるのでしょう?」
との問いに対し、切れ長の目をした国の役員はこう答えた。
「貴方のような偉大な方の指導により、我が国にも世界に誇れるような学者を育成したいのです」
「わかりました、一度帰国して妻と相談してから決めようと思います」
彼の熱意はよくわかった、しかしピエールはそう言って即答を避け自国に戻ることにした。

   * * *

「あなた、どうして帰ってきたのですか?」
 かの国から戻って来たピエールを気づかうマリー。世界最大投資といわれる研究施設は気に入らなかったのかと夫に質問した。
「設備は素晴らしい、あそこならいろんな研究もできそうだし、資金もいくらでも使っていいそうだ。しかしだ――」
「しかし、なんですか?」
「政府の関係者が私に聞くのだ『ノーベル賞をとれる学者を我が国から作って欲しい』と」ピエールは大きなため息をついた「そりゃあ、無理だ。賞のために研究しているようでは――」
「貴方の考えは正しいと思いますわ。設備ではなく、いいアイデアが大事なんですね」
 こうして大切なことを再認識したナッスー夫妻の研究は続く。「かの国」の運命やいかに――。
 
作品名:ihatov88の小咄集 作家名:八馬八朔