ihatov88の小咄集
49泪橋の向こうで 10/20
日本のとある町、ここは競争に敗れ世間の荒波に呑まれ生きる希望を失った者の集まる町。そう、ここは泪橋の向こうにあると言えば分かる者はいるだろうか。
俺も例に漏れず、あちこちを放浪したのち結局ここに流れ着いてしまった。もちろんここにいる奴らは真面目なものなど誰一人いない。昼間から働く奴などおらず、通りは呑んだくれが転がり、捨てたゴミの所有権をめぐって殴り合いのケンカがあちこちである。
それでも生きていれば腹は減る。いつだって何かを食べなければ生きてはいけない。そういえば何日もまともな物を食べていない。目に入るものが何でも食べ物に見える、幻覚症状か、これはヤバいことになった。
朦朧とする意識の中で俺は目線の先に商店があるのに気づいた。肉屋だ。調理をする手段は無いがとにかく何かを食べなければならない。急いで所持金を確認した。残り50円、これで食べられる肉などあるのだろうか。
俺はふらつく脚で肉屋の前にたどり着き、店に陳列されている肉を見た。高い順から肉が並んでいる。左から牛肉、豚肉、そして鶏肉。残念ながら俺の所持金では買えそうに無い。
「おや……」
あきらめようとしたその時、鶏肉の横にさらに安い肉があるではないか……、値札の上に書かれてある文字はただ単に、
肉
俺はもう少しがんばって生きようと決意した。
作品名:ihatov88の小咄集 作家名:八馬八朔