ihatov88の小咄集
52特価物件 11/2
「空き室 あります」
路上でこんな広告を見つけた。東京の真ん中、木六本にある誰もが知っている超高級住宅街「木六本ヒルズ」が売りに出されている。最上階、80階の5LDK、なんとお値段3000万!
なんと、なんとの破格ではありませんか。ここらの相場なら軽く3億はこえるであろう木六本ヒルズ、なぜこんなに安くで提供できるのか?そしてなぜこんな安いのに人が飛びつかないのか?
広告の発行元を見ても胡散臭い会社ではなさそうだし、特に物件そのものになにか大きな欠陥があるわけではない。私は広告を片手に書かれてある不動産屋に飛び込んでその真相を確かめるべく聞いてみた。
「いらっしゃいませ」
「すみません、この広告なんですが」
「ああ、そうですよ。3億でなくて3000万円です、いかがですか?」
開口一番この応答、問い合わせをする客はかなりいるようだ。
「物件をご覧になられますか」店員はそういって窓の外を指さした。そこに見えるのは現代版バベルの塔ともいえる木六本ヒルズの壮大な姿が「ご覧になることが出来ればさらに割引させていただきます」
なんと、ただでさえ安いのにさらに割引するというのか。
私はとりあえず二つ返事をして現場の木六本ヒルズに連れて行ってもらい、エントランスをくぐるとその意味が初めて分かった――。
「エレベーター、ないやん」
80階ははっきり言って登山やないかい!こりゃ欠陥住宅だ……。
作品名:ihatov88の小咄集 作家名:八馬八朔