ihatov88の小咄集
51意外な真実 10/28
花のお江戸。町を仕切るのは火消しの一団。ひとたび火がつきゃ大変よ、木と紙で出来た家は一気に燃え広がる。そこで素早く集まって火を消すのが火消しの仕事。組の名誉を示すため、火の中危険を顧みず、纏(まとい)をもって屋根の上――。
* * *
纏の役割は、上から火消しの順序や位置を示す役割ともう一つ、手柄を立てた組がどこであるかを示すため纏に文字が書いてある。昔はいろは歌で始めるので「い」組から順番に「す」組まであったそうだ。
しかし、当時のひらがなは47文字あるのに実際にあったのは45組。纏には「し」と「ひ」はないのだ。それは何故かって?ニッポン人ならお分かりだろう、「し」はここでは縁起良くないし、町の火消しであるのに「ひ」はやっぱりまずいだろう。火消しに「ひ」があったらとんでもねぇ、べらぼうめぃってなカンジで江戸っ子流の粋な計らい――。
最近まではそう思ってたんですよ。
最近になって、町火消しの15代目現代を生きる生粋の江戸っ子の源さんにそんな話をしてみた。
「当時から火消しの皆さんはゲンを担いでそんな組の名前をつけていたんですねえ」
「何を言ってるんでぇ。粋ってもんじゃねえぞ」予想とは違った答えが源さんの口から出た「『し』と『ひ』が無いのはゲン担ぎだか何だって言うけどよ、そんなんじゃねんだ」
「ええ、そうだったんですか!」
驚いて源さんにその真相を聞いてみると、こんな答えが帰ってきた。
「江戸っ子は『ひ』が言えねえんだ……」
歴史ある江戸の町火消し、そんな真相あるの知らなんだ。確かに江戸っ子は「ひ」は全部「し」になってますしね、紛らわしいですよね――。アサシビール、シマワリの種……。
作品名:ihatov88の小咄集 作家名:八馬八朔