ihatov88の小咄集
53特価物件での天敵 11/4
私は結局3000万円の破格物件に購入することにした。誰もがあこがれる木六本ヒルズの最上階、80階5LDK。どうだいと言わんばかりの絶景の景色。まさにここは天上だ、自分の上に住むものは誰もいない、世界の大都市トーキョーの夜景は私一人のもの……。
しかし、ここにはエレベーターがない。引越しは壮絶を極めた、ここにたどり着くのに2泊3日。ニッポンのチョモランマとはまさにここを指す言葉だ。引越し屋の作業も気にしない気にしない、だって私は頂点にすむ「殿上人」なんだから。
よくよく考えてみれば、ここに住んで引きこもってしまえばいいんだ。別に必要がなければ下におりなければいいわけだし、今のご時勢通販があるから家に出なくたって生活は出来る。一度住んでしまえばもう下りることなど必要ない。配達のあんちゃんが毎日登山してここに荷物を持ってくることだって私には関係のないことだし、自分さえ快適な生活ができたら別に構わない。泥棒だってわざわざこんな上まで上ってくることなどありゃしない。まさにここは「天国」だ。引きこもりの自分にはこれ以上邪魔者がいない世界は地球のどこをさがしても二つとない。買って正解だ。借金したけど借金取りもここまで上って来れない。そうさ、私こそがこの「木六本ヒルズの頂点に住む神」だ名づけて「トップ・オブ・ギロッポン」だ――。
今日も窓から見える下々の生活を眺め、優越感に浸りながらPCの前に座って時間をむさぼることにした。下界で毎日額に汗を流している人間のことなど気にしない、気にしない。そう思って画面をみると突然、
プツン……!
すべての電気がストップしたのだ。
……電気なかったらここでは何にもできないではないか。天上にも天罰はあるのか……。
作品名:ihatov88の小咄集 作家名:八馬八朔