ihatov88の小咄集
56トイレの神様 11/28
啓子は長年をともに過ごした夫に先立たれ、子どもたちも独立し、小さいながらも夫が建てた二階建ての一戸建てに一人で暮らしている。時折寂しい気持ちにはなるが、子どもや孫が近くに住んでいて度々訪れるので毎日部屋の掃除には余念が無い。
そんなある日、子どもたちの勧めで我が家をリフォームすることにした。一人になって使う頻度が少なくなった二階の部屋を前面にリフォームし、子ども部屋は趣味の絵画の部屋に、二階のトイレは撤去し小さな小部屋に様変わりした。当初は納屋としてなにかを置いておこうと思っていたのだが一人では広い家に置くものなどなく、子どもたちと相談した結果、1階のリビングの真ん中においていた仏壇をそこへ移すことにした。
「元々おトイレだったところに仏壇置いてお父さん怒らないかしら?」
「大丈夫ですよ、だってお父さんは独りでいるの好きだったし」
「そういやこのトイレでよく新聞や雑誌よんでたよね」
といいながらそういや生前「自分だけの空間が欲しい」と言っていた夫を思い出し、リフォームもしたしここを専用のスペースとしてあげていいだろうと解釈した啓子は子どもたちの勧めもあり、ここを新しい仏間とすることにした。
リフォームをして数週間後、家を訪ねてきた小さな孫が2階の仏間に入っている仏壇を見て一言
「おばあちゃん、これってホンマの『トイレの神様』やねえ」
「おほほ、確かにそうですわね――」
ほのぼのとした日常、リフォームして良かったと思う啓子であった。
「おいおい、正しくは『トイレの仏様』でんがな……」
作品名:ihatov88の小咄集 作家名:八馬八朔