ihatov88の小咄集
57猛者(m.o.s.a) 12/7
今日も現場で働く我々は、朝日とともに目を覚まし、持てるだけの服を着込み現場に向かう。今日も日が暮れるまで外での現場の仕事だ。暑いときはシャツとタオルを何枚も換えては水を飲みながら暑さをしのぎ、そしてやってきたこの季節。冬はそれこそ命がけだ。暑けりゃ日陰に逃げればいいが、寒かったらハッキリいって死んでしまう。
我らはまさに命がけの仕事。今日も元気にがんばろう。動きを止めたら死んでしまうから――。
今日は朝から路面は昨日の残雪で最悪の状況、防寒靴も効果が出ない上、着込んだ服のどこからか風が入ってくるようなそんな日だ。仲間の一人は寒さに敗れて救急車で搬送。現場はまさに戦場だ。
「おう、みなの者!」
そんな昼休み、ストーブを囲んでここにいる者を集めたのは現場監督。猛者をまとめる猛者中の猛者もあまりの寒さに髭が凍っている。
「へーい!」集まった俺たちにこう言うのだ。
「現場で『寒い』『寒い』と言うと全体の士気が下がる。だから、昼からは『寒い』といったら100円罰金にする」
「えーっ!」
「お前ら、文句あるんかーい!」
凍った髭で叫ぶ監督に逆らうものなどいない。だって見た目も生き様も『猛者中の猛者』だから。
そんな監督の一言で午後からの我慢の作業が始まった。最初のうちはみんな黙っていたのだが、口々に出るその言葉。ストーブ横に設置された貯金箱は見る見る重くなってゆく。そして寒さのあまりおかしくなった監督がポケットから財布を貯金箱に向けて投げつけて最後にこう言ったのだ。
「ああああああーーーっ。寒い寒い寒い寒い寒い寒い寒い寒い!」
カントク、あんたはやっぱり猛者中の猛者だ――。
作品名:ihatov88の小咄集 作家名:八馬八朔