ihatov88の小咄集
61福引き、その2 1/4
悔しいからまた買わなくていいものを買って補助券5枚を確保した。両手には今の今要らない日用品で手一杯だ。これは一年を占う意味で「勝負」なのだ。あとに退くワケにはいかないのだ。
呆れた様子のお姉さん。いじると長いので淡々と業務を進めるのが顔色でわかる。さっきはイジワルでハッカのアメを渡しおってからに……。次はそうはいかないよ。この気合一閃で金の玉を出してハワイ旅行を手にするのだ。見ておれ、神の左!
ポトッ。
「出たっ!」
どうだ。出た玉はキラキラと太陽のように光っている。ところが気合入れすぎて壊れるくらい回したもんだから、確かに私の見たゴールドの玉はトレーの上をバウンドしてコロコロと転がり壁の穴に入ってしまった。
「なんということだ……」
諦めきれるか、あれはハワイ旅行なのだ。私はその小さな穴に手を入れようとすると、なんと先客がいるようだ。
「何や何や。よその家にボールなんか入れおってからに……、はぁ?」
出てきたのは壁の穴に住むネズミさん。寝てるところにボールが入って来たことにご機嫌斜めだ。
「今日はぎょーさんボール飛んで来んねん。で、お宅が突っ込んだんはこの金のボールか?それとも銀のボールか?」
「そうそう、その金のボールですわ。探してましてん」
私はホッとしてネズミさんが手にしている金のボールに手を伸ばすと、触れる寸前でその手を引っ込めたのだ。
「ンな訳ないやろ!おっちゃんも都合良すぎやて!」ネズミさんはそう言って後ろから白い玉を差し出した。
「あんたにはこれ返しとくから我慢しとき」
結局返してくれたのは白い玉。壁に入って引っ込まれたら打つ手が無い。私は泣く泣くお姉さんにそれを手渡した。
「はい、あめちゃん一個になりまーす」
淡々とそう言われ手の上に再びアメが乗せられる。
「これは……」
ハッカではなかったけど、代わりにチョコ味のアメ。これまた微妙な感じだ――。
そしてこの福引き。金賞と銀賞は最後まででなかったらしい――。
作品名:ihatov88の小咄集 作家名:八馬八朔