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ihatov88の小咄集

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64おしどり夫婦 1/20



 うちの店長は愛妻家、いつも左手の薬指が光っている。職場は1階、自宅は2階なもんだから、お昼前にはちょっとふくよかな奥様がお弁当を届けに来る
「もお、忘れっぽいんですから、あなた」
奥様の指にも指輪が光る、典型的なおしどり夫婦、見てる社員も微笑ましい。

 そこで部下は奥様が店を出たあとに店長に問い掛けた。
「店長は夫婦仲が良いですね」
「そうか?そんなことないぞ。ケンカだって言い争いだってするさ」
 店長はそう言って頭を掻いている。左手の指輪がその度に揺れては光っている。
「ほら、その指輪だって……」
部下は指輪を差して行った。それは一瞬キラッと光ったように見えた。
「あん、これか?」肩を揺らして笑い出す店長。「ちゃうねん、ちゃうねん。ワシゃ忘れっぽいじゃろ?指輪外したらどこ置いたか忘れるからずっと着けてんねん。無理して高いの買うたさかい――」
「はあ、そうだったんですかぁ?」
 冷ややかな笑みを見せながら部下は思った。店長はそういうけれど、毎日のように忘れ物を届けに来るしっかり者の奥様も指輪をしているじゃないか。そのことをやんわり反論すると店長はさらに笑いだした。
「あいつはあいつで、指輪が指から抜けへんねん」
「確かに……」
 そう言ってデスクマットに挟んだ昔の写真を見せた。あ、これ。昔のモデルさんじゃなかったんだ……。

作品名:ihatov88の小咄集 作家名:八馬八朔